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034.楽園/自壊


「実はね! 魔術を展開させることが出来れば、大賢者が創造した楽園に行くことが出来るんだよ!」



「────な」



「驚いた? 驚いたよね! なんと言ってもさ! 大賢者は自分だけしか魔法を使えない世界を作ったらしいじゃない? 何その世界! そんな世界に私達がさ……行けたらさ……なーんでも出来るよね! こんなありふれたつまらない世界じゃなくて、思うがままにさぁ!」



「そんな……ことは……あの場所にそんな気持ちで……」



「えーえー? なになーにー? 怒っちゃった怒っちゃった? だけどさぁ? 別にこちらから移動出来る手段をさ、大賢者が用意してるんだから……そういうことだよね! 別に、君が生きていた場所は、君だけのものじゃないってこと! 勘違い(はなは)だしくて反吐(へど)が出ちゃう……って!ごめんごめん! うそうそ! 私そんなこと思ってないんだけどー?」



「大賢者とやらが世界を私的に創ったかもしれない。けど、そこで生まれ、そこで紡いできたものは偽物(つくりもの)なのか?」



「あはっ、そんなのさぁ、決まって────」



『あー……。皆々様、お待ちかねであります。遅ればせながら、(わたくし)()()()()()()は、捕らえられた者達を解放しに来ました……既に、あなた方は包囲されちゃっていると存じます』



「……ちっ、まずいな。せめて魔素だけでも……っ」





突如として大地が規則的に揺れ、大きな音が頭上の辺りより鳴り響く。その音は聞き馴染みのある、聞いたばかりで記憶に新しいあの音声。(なまめ)かしいシュトルムの声が、空間中に広がっていく。





「ごめんねごめんね! オネスティくん! 私! ここで捕まる訳には行かないんだ! だからせめてッ────」





フェルニオールは(いびつ)に張りつけたような笑みを浮かべながら……。腰に手をかけ短剣を抜く。私は息を荒くしながら鋭い眼差しを向け続ける彼女と相対(あいたい)している。まるで、あの時のような状況に、足が(すく)んでしまう。





『はーい、そこまでー』



「────な……がぁはッ」





聞き慣れた声。考える間もなく人にしたその主が放った魔術は、フェルニオールの左手を空間ごと切り裂いた。





「ふ、ファブリカさん────」



「遅くなってーごめーん! ずっとー隠れながらー応援要請をしたりー、この中にー侵入したりでー。機会がなくてさー!」



「お、おま……え、先程からここにいた……ということ、か……?」



「うんーそうだよー! というかー。誤算だったけどー、団長が捕まった辺りからー考えてはいたんだけどねー!」



「こ……このお前、よ、よくも私の、う、腕を────」



『もう頃合かなぁ、一旦撤退だなぁ』





砂塵立ち込め、ぼやけながらに映し出された輪郭は人の形をしている。どこからともなく空間内に現れた新たなる音。その発生源へ、フェルニオールは駆け寄る。





「……あ、主ッ! し、しかし」



「状況を見た限り、王国は一個騎士団をこんな辺境まで寄越してきたんだぁ。それに魔術具は既に移動済みだぁ。早くするんだなぁ」



「……はっ」



「それに……。気に食わん奴が混じってるからなぁ、嫌だなぁ」





彼女が主と呼ぶ者の姿。砂塵晴れゆく次第により、人間のそれではないことに気づいてしまった。





黒霧(くろぎり)の民。まさか、生き残りがいたとはなぁ」





巻き上がる砂嵐が晴れると人の形をしているものの、首から上がない異形の生物が姿を現す。人間の顔に当て嵌めて「目」の位置に赤い閃光、二本の角が浮遊している。胴体は人間の形に酷似してはいるものの、石化し、所々が張り出しているせいで最早(もはや)人間のそれとは言えない。ファブリカがその姿を目にした瞬間。常に冷静であったはずの呼吸が乱れ始めている。





「……またお前達は、私から(ことごと)くをッ────」



「また、見殺しにするのかなぁ? まあでも本気でやるなら、そんなこと気にせずに本来の姿見せなきゃなぁ……」



「……ッ!」




目にも留まらぬ速さで展開しようと構えていたファブリカの腕を天に掲げる。ファブリカは、掴まれた腕を身体ごと「捻じる」ことによって振り払い、その生物から後退する。





「自壊用の魔術はもう起動してるんだよなぁ。せいぜい気をつけなきゃなぁ」





生物とフェルニオールは……。生み出された砂塵に呑み込まれ、消えてしまう。





「聞いたー? ここー、自爆しちゃうんだってー」



「聞きました、ですがへーネル団長にダルミさん……それに」



「団長とダルミはシュトルム騎士団長の機械科部隊が救出してくれてると思うー」



「……なるほど。ということは、速やかにこの場から退避、救援に来ている騎士団にその旨を説明後に離脱ですね」



「そうそうー! さー、行こうかー」





* * * * * *





私はファブリカに手を引かれ、何も分からないままにひたすら進む。実際に見て、彼女からの解説も織り交ぜながら進んでいくと、ここが地下に作られた施設であることが判明した。そんなことがやっと分かってきた辺りで、彼女は歩みを止める。こうして私は、やっと外界の光を目にすることが出来るのだ。





「よーし! とーうーちゃーくー! さー、早くあそこで報告しないとー」



「……あそこって、なんですあれ」



「あれはシュトルムさん。あの大きな機械こそが騎士団長の姿でありー、ターマイト戦略騎士団の基地なんだよー」


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