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033.保管/魔術


「えー、ご覧の資料のとおり、このような手筈により現状我々が帰還者を王国より奪取せしめたわけにございます。それにつきましては、帝国魔導騎士団長フェルニオールにより説明を」



「ご紹介に(あずか)りましたフェルニオールであります。私から今回の計画についての簡単な概要をお話させていただきます。────突如現れた第六の帰還者、仮称オネスティを使用した大規模魔術展開。我々の宿願(しゅくがん)たる(いにしえ)の魔術、大賢者が遺したとされる魔術を展開させるためには帰還者の体内に蓄積された精神情報が必要であり、前回の候補であったネメシス計画失敗につき、その代替案(だいたいあん)として本作戦を始動させました」



「この様な形になったのには、理由があるのだな?」



「はい。対象、オネスティは王国領の森林で発見。精神分析を(もと)に接触を試み、帝国領に移送する予定でした。しかし、想定外にもラムダ山に王国魔導騎士団前線基地が存在し奪取を許しました。我々の王国へ向けた陽動部隊発見の後、城壁上にて会敵(かいてき)。王国内にて魔素防郭(ぼうかく)を突破、精神情報を掌握。人員分散後に対象を奪取、今に至ります」



「損害は?」



「損害軽微、王国への情報流出は協力者のおかげで幸いにもありません」



「宜しい」



「同時に王国側の管理者と(おぼ)しき魔導騎士団団長、イラ・ヘーネルを捕縛致しました」



「それはご苦労、(しか)るべき解剖、分析の後に適切かつ速やかな処分を────」



「ちょっと待ってくださいっ!」



「これはこれは、口は塞いでいないのかね? 騎士団長殿?」



「これはなんです? さっきからなんの話をして────がぁッ」



「大変失礼致しました。これからの運用のためには不要な負荷をかけるべきではないとの判断から、最小限に抑えた次第であります」



「たしかにフェルニオール団長の仰るように、今後の同調には彼自身の内面性が深く係わります。故にこれはそうなるべき事象なのでは?」



「……どうなんだね、フェルニオールくん」



「もちろんその通りであります。イラ・ヘーネルの処分に関する話題を出すことにこそ意味があり、彼の答えが我々の今後における基盤となり得ます」



「うむ。現時点により王国魔導騎士団長を処分から収監に、期間は保留。随時更新とする」



「ご配慮、感謝致します」





* * * * * *





私はその言葉を最後に、再び一切の情報を失う。何が起きているのか、どのような話をしていたのか理解が追いつかない。私とイラ・へーネル、そしてファブリカの前に突如として姿を現した少女。声帯音から察するにその名はフェルニオールであるということだけが、辛うじて実感が伴っている。彼女の言葉からそれに呼応して出された処分という単語。まさか、ここには団長もファブリカもいないのではないか。



────脈拍さえ聞こえぬ無の境地。平面に佇む自らを俯瞰で眺める漆黒空間の一点に、微かな紫炎を見た。





「────な」



「あーん、やっとやっと気づいたー? よかったよかったよかったねー!」



「ここは……」





虚ろとなった視界の中で、私は気づく。書物が積み上がる様にして生み出された壁に四方を囲まれた異様な空間にて、記憶の中で「フェルニオール」と名乗った人影がこちらを見ている。





「ここー? ここはねここはね! 帝国領古物保管所! 君に展開とー? うんうん! 展開をしてもらう魔術具を収めてある場所なんだ!」



「団長とファブリカは……」



「ついさっきの話聞いてた? 聞いてたでしょー? というかというか、団長さんともう一人、地下牢で監禁して監禁しちゃってるけど、そのファブリカ? って名前は知らないなー! だけどだけど、もしやもしや! その子あの子は仮面をつけた子のことなのかな?」





彼女。どうやら自分でファブリカの首根っこを掴み、空から落としたというのに、覚えていないらしい。つまり、ファブリカは認識阻害を使用し、難を逃れた可能性がある。





「────……」



「まあまあ、いいけどいいけど! 君にはこれからこれから古の魔術を扱ってもらう、それを拒むなら団長は即刻処分処分! 私達に従ってくれればそれでいいの! もう一度言うとねー、従ってくれればそれでいいの! だよ! 今は生きてはいる団長さん、君の返答次第ではではー? その命はないよー!」



「……少し待ってください。聞きたいことがあります」



「いいよいいよ! いってみな!」



「他に捕まった人はいる……んですか?」



「……あー……? いないいない! 君と君達? イラ・へーネルだけ連れてきたんだ!」



「……私がその、魔術を展開すれば、解放してくれるのですか?」



「もちろんもちろん! だから早く早くしてね!」





どうやら私と共に包囲された団長は現在も捕らえられているようだ。しかし、ファブリカの存在は把握されていないのが不可解である。焦りを孕んだ表情の彼女が言うには、その古の魔術とやらを展開させなければ団長の命はないそうだ。





「さっ、ついてきてくれる?」





私は半ば強引な形で、腕を引かれる。目覚めた時から図書館のようなこの空間にて、背もたれのない簡素な椅子に座っていたのだが、あまりに突然に力を掛けるので、その拍子に転倒してしまいそうになる。



私のことなど視界に入れず、ただひたすらに突き進む彼女。手を引かれながら追従すると、突如として今までとは全く異なる空間に足を踏み入れていたことに気づく。





「あっ、気づいたー? ここはねここはね外部からは干渉できない秘密で秘密の部屋! ここでここでー、君に()()になってもらうんだー!」



「……ど、うぐ?」



「あれあれ? 言ってなかったっけ! ごめんごめん! 大規模魔術を展開させる為には、君達帰還者の体内に蓄積された魔素を全て抽出しなければならないからねー! ちゅうちゅうじゃなくて抽出だよ抽出! あー大変大変! 工程としてまずは、口から恥ずかしいところまでの……あは! 通り道を大きく大きくー、大きめに開けないとね!」



「なにを……言って……」



「もー! 無理もないよねー! まーでもでもーこれから全部全部ー! 私に見られちゃうんだしー、生命活動中に生み出される魔素をー永久的に抽出するために生かしてあげるから! 死ないし? 死ぬことはないんだし安心しなよー! ……ってどうしたのさ! そんなにそんなに(はな)(ばな)れに? 離れちゃって」





私は自然と彼女から距離をとっていた。一言では表しきれない感情。彼女の表情、姿、存在。ああ、これは。私は気づいてしまった。この感情が、初めてのことではないと。





「あの……もしかして協力者って……」



「もー! そんなこといちいち気にして! しっかりして! しっかりしてね! 私も強引にするのは嫌いで? 嫌いなの! だから早く早く! こっちに来て! ……さもないとー?」





彼女は悲しそうな顔をしながら両手を勢いよく合わせる。そして突然。その重なり合った隙間から零れ落ちるようにして紫炎が生まれると、次第に引き離されてゆく二対の手を軸に鞭が具現化する。





「これこれ! さっきのやつとは全くの別物でね! 触れるだけで火傷するから! 気をつけてね! 気をつけるんだよ!」



「……気をつけても何も、私はこれから……殺されるんですよね?」



「そうなんだけど! んー! 展開には君の精神が大きく関わっていてね! 簡単にいうと、君の口から水を通して下の方に繋げることで、一つの流れが出来るの! 流れね! 流れ! それを軸に溶けだした魔素と器具を繋げて同調させることで、やっと道具が完成するんだよ! だから、だからだから、早く早く! 怖がらせたり無理やりしちゃうと精神が乱れちゃうから面倒なんだよ! 面倒!」



「分かんないですよ、そんなこと言われたって。それって解放って言えないじゃないですか」



「そんなことないの! 君のおかげで、囚われている人達が開放される! あー、それはそれは君という存在を一生植え付けることが出来るんだから、とっても羨ましいじゃん!」



「────」



「ありがとうございますーああー貴方様のおかげでー私めはー今日も生き長らえておりますーって思われるの最高じゃない? だから早く早く、あなたの意思で、救おうよ」



「その……大規模魔術というのは、何を成せる為のものなのですか?」



「お! お! やっとやっと素直になったのかな! んー? んー! ほんとは、教えちゃダメダメーなんだけど、せっかくせっかくその気になったみたいだし! それにそれに! 知ったら尚更、前向きになれると思う! だからだから! 教えちゃうね!」


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