031.阻害/帰還
「……あのーオネスティーくんはー、私とーダルミとー初めて会った時にー、違和感を感じなかったー?」
私はファブリカから発せられた「違和感」という言葉に思い当たる節がある。あれは……あの山で初めて出会った……。トーピード魔術騎士団に所属しているという女の人達……。いや、あれは一瞬に感じ取った印象で……今となっては自信を持って言い切ることが出来ない。存在が不明瞭で、記憶を辿って再現しようとしても、イラ・へーネルの姿は思い浮かべることが出来るのに、いざファブリカとダルミに意識を集中させると黒い靄という掴みどころがないものしか見えないのだ。
目の前にいるのは分かるのに、見ようとする試みから阻害されて認識出来ず、面と向かって話をしているのが団長しかいないように見える。そして、しまいには彼女が「私達」とつけると内心首を傾げてしまう。つまり、それこそが違和感の正体であり、ファブリカが聞いているのはそのことであろう。
「たしかに感じました……まるで記憶が書き換えられるみたいに、それに関連する全ての情報に手が加えられているような感覚を……」
「それは今もー、だよねー!」
「……はい」
「そう。まさしくそれが違和感の正体だ。彼女達、いやファブリカとダルミは自分達に関連する情報を改竄して、あたかも存在を認識出来ないようにしているんだ」
「……あたかも、ですか?」
「ああ。認識自体は出来てはいるんだ。オネスティも、先程まで会話はしていたろう? ……当然、人間に元から備わっている視覚器官から自覚情報として間違いなく記録されている。だが、映し出した姿が投影されて認識に至る前に、書き換えることが出来るのだ」
「そうですそうですー。そうだねー、オネスティーくんにはー特別にー体験させてあげるよー!」
「あ」
「今はファブリカ、という一人の人間を認識出来ているだろう? それが出来ているのは、彼女がオネスティにだけ認識阻害を解いているからなんだ」
どうやら、トーピード魔術騎士団に所属しているファブリカとダルミは認識阻害という代物で、記憶やら何やらを改竄したらしい。しかも……。今現在としてファブリカ姿は見えているという事から、その魔術の反映が細かく調整出来るものなのだと身をもって知る。
「つまり、ファブリカさん」
「はいー?」
「見せたくない相手には自分を見せないことが出来るのですね」
「そうだよそうだよーいいでしょー!」
「はい……」
「おいオネスティ。変なこと考えてないか?」
「い、いえ。ファブリカさんの認識阻害の選択が細かく出来るならば、敵に姿を見られなくていいなと思っただけですよ」
「ん?」
「んー?」
「……すみません」
「はは。まあ、いいとして。ファブリカ、敵に姿を見られないことが認識阻害のいいところではないよな」
「そうですそうですー、私がー認識阻害をかけていたのはー、この城壁上にいたー他の騎士団達にーなんですよー!」
「?」
「さっきはー、認識阻害についてー分かりやすく説明するためにー実際にーオネスティーくんにーかけてみたんだけどー。今もー二人以外にはー私の姿はー見えてないんだよー」
「……ここへ来てからも、ずっとですか」
「うんー! 正確に言うとー王国に入る時とー、壁に上がる前にいたー衛兵さんと会った時にはー解除したかなー」
「……ええ」
「故に、我々には新しい人員が入らない。認識阻害には限度があれば、多数の人間を抱える利点もない。行う任務は専門的であるがために、公には出来ない」
「……前線基地としてのトーピード魔術騎士団は表向きで、本来の目的は専門的任務である護衛にあると」
「ああ、御方の新しい拠点を移動するのにダルミの認識阻害が必要だったんだ。あいつを置いてきたのはそういうことだ」
なるほど……敵と対峙しているのには変わらないがその接近の仕方が他の騎士団とは異なるらしい。
「そうだな……これくらいにしておこうか」
空を見上げ、その後視線をこちらに向けた彼女は、この会話を中断する。他の騎士団と比べてみると分かるが、トーピード魔術騎士団は破格の存在だ。認識を阻害する事が可能、なおその騎士達全てが魔術士であり、姿を認識される事なく国内外にて高火力な魔術を使える騎士団。……王国五大騎士団の中で、これほどまでに「諜報、破壊活動」に適したものはないだろう。結局、私はトーピード魔術騎士団に属するその数をついて疑問に思っていたわけだが、根本的な部分で忘れかけていたのかもしれない。
「すまないな。ダルミからの思念伝達によると、何やら状況が芳しくないそうだ」
「いえ、こちらこそ変な質問をしてすみませんでした。それで……大丈夫なのですか?」
「そこら辺は、半々と言うところだな」
「?」
「……ファブリカ、伝わっているか?」
「はいー、移転先に敵多数発見ー援護求むーだそうですー!」
「なるほど、そういう訳だオネスティ。急ぐぞ」
「りょうかいで────」
私は反射的に同意の意を伝えようとする。しかし、言い切る前と同時に、ここへ向かうためにどのような手段をとってきたのかを思い出してしまった。
「え、やっぱり飛びましすか?」
「言葉変だぞ」
「言葉ー変だよー。早く行くよー!」
「……教えてくれないのですね」
知らぬ振りをする二人を見て、私は淡い期待を抱くことを辞めた。
「分かりました。行きましょう」
「ああ、オネスティ。もう用意は出来てるからな。あとは乗り込むだけだ」
そう言って、待ってましたと言わんばかりの表情を浮かべながら笑みを浮かべるイラ・ヘーネルの真上の空を見れば、あの鳥が力強く飛んでいる様が映る。私はやはり、空を飛ばねばならぬのだ。
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