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029.鳥籠/黒煙


浮遊物から溢れ出した無数の小筒。それらは煙を吐き出しながら、城壁上の結界に留まっている。襲撃の備えとして。展開していた結界を小筒を取り除くまでの間。維持し続けなければならないという。しかも、どうやらその煙は良くないものであるそうで、結界は簡単に元のようには戻す事が出来ない。



魔術士達に浮遊物体を結界の中央まで運ばせ、その物体の中身である小筒を展開されていた結界上に空中から広範囲に飛散させれば、重力に沿って落下していく小筒は煙を吐きながら展開している結界に接着し、留まる。動作の間の全てにおいて煙を吐く。無数の小筒のそれぞれが煙を吐き出している。



王国の全てを対応(カバー)している結界。これを覆ってしまうという一連の流れが、帝国の狙いだとするならば……。数々の変則があったのにも関わらず、順序よく事が運んでいるのは、少しばかり不可解な気もする。





「結界を無くせばー、その上にある小筒がー街へと降り注ぐー。それにーその小筒からはー今も煙が出ているー」



「……そうだな。おそらく帝国は持久戦を想定してのことだろうが、それ以前に今回は想定外の事象が二つ程起きている」



「……それは」



「一つは奴らのことを君達が発見したこと、そしてもう一つは、君達のおかげで攻撃への対処が出来るというのに機関はその機会をみすみす手放したこと」



「結局、そこが引っかかるわけですね」



「ああ。しかも、先程は確かに君の指摘した通り、情報収集の線もあるかと思っていたが、結果的に帝国の目的が見えてきたという事から、平和的な理由ではないと思い始めているのも事実だ」





食い入るようにして聞いていた私の耳に、そのような事実が告げられた。そんな彼女の言葉を聞き終えた後。刻々と目まぐるしく変化していた空の光景に更なる動作が起きる。箱のような浮遊物体の中から小筒を結界一杯に投下させ、日除けの天幕のようであった結界上を煙まみれにした魔術士群……敵と思しき存在は、役目を終えたのか円形の隊列を崩し、一箇所に合流した後に投下位置から離脱していく。城壁から離れた位置にて待機している魔術駆動車群に合流しようとしているのか、その方向に向かって魔法使い達は悠々と空を飛ぶ。そして遂には、この城壁上にいる騎士達の頭上へと差し掛かりながら頭上を通過していこうとしていた。



……どうして機関は我々に「待機命令」を出したのか。そんな問いの答え。欲した静かなる熱は、この時をもって最高潮に達したように思えた。そして。探し求めていた問いに対する答えはある事によって、これまた唐突な変化として提示される。騎士達の頭上を越える魔術士群。役目を終えた故に、この王国を後にしようと、城壁の端へと迫る。



すると────それを待っていたかのように。赤い色をした結界が新たに城壁に沿って現れる。それは王国を取り囲むかのようにして、空に向かって高く伸びていた。結界は、魔術士達が王国を去ろうとしたその時に展開され、壁の様に立ちはだかった目の前の赤い結界によって、進行を阻まれた。



────魔術士達を囲んだ赤い結界の存在。



それは円形に建てられた城壁の全てから出現しており、その中で結界に取り囲まれた魔術士達は王国の中から外へ出ることが出来なくなった。空中に浮遊しながら、突如として現れた壁の前で辺りを見渡した後。自分達が結界に囲まれた事を悟ったのか、持ち合わせていた杖を取り出し結界に向かって魔術を放ったが、掠り傷さえついていなかった。こうして、騎士達が思い望んだ結果であろう新展開によって、最高潮に達した静かなる熱は今にも別の物へと変化する。



……ロームルスが口にしていた「シュトルム」という人物。彼とイラ・へーネルとの会話を聞いていれば、その彼が見物客の様に現れ騒ぎに騒ぎ、ロームルスの言葉を受けて城壁の中へと静かに帰っていった、騎士団の()であることが分かる。そこから考えると、この城壁上、敵と対峙する為に必要とされた騎士団はそれぞれ、ロームルス、イラ・へーネル、そしてシュトルムの三つの騎士団であるが、その中で不在の団長は紛れもなく「シュトルム」ただ一人なのである。さすれば先程聞こえた電子的信号と同じ様に聞こえてきた機械に通された様な声の主は、他の騎士達の反応も参考にした場合、残りの団長と同一であるという説が濃厚である。



さて……今、定かに起きている事というと。小筒が飛散させ役目を終えた魔術士達が、王国の空から消え去ろうとしていた頃、新たに現れた赤い結界が出現し、彼らが王国の空から離脱することが不可能となったことだろうか。





「あー……。皆様お待ちかねであります。遅ればせながら、(わたくし)、シュトルムデェスと申します。これから捕らえた子供達にぃ……実験。しちゃいましょうかと存じます────え、時間ない? それじゃ展開」





突然、抑揚を含ませたような不気味な言語的抑揚(イントネーション)を孕んだ声が、耳にねっとりと纏わりつきながら辺りに鳴り響いた。声量が大きくなったり小さくなったり……。まるで一定のリズムなど感じられない不規則な音が広がる。機械的な何かを通してこちらに声が届いているので、耳にできたその言葉からは、得られる情報が少なかった。



声が聞こえなくなるなり、すぐさま無機質な秒読み(カウントダウン)が始まる。単調な音声が数を読上げ、その数が一つ、また一つと、少なくなっていくと、それを聞いているうちに無機質な音そのものに微かではあるが、吸い寄せられていく様な薄気味悪い感覚を覚えた。



刻一刻と告げられる段階的音声。これを聞きながら、突発的に耳に入ってきた「シュトルム」の言葉。これから起こるという()()。一部始終をを目にしようと、結界によって囲まれた魔術士達を見上げる。彼らは今も尚。外へ出ようと必死に魔術らしき光線を朱色の壁に向かって放ち続けている。私は、その鳥籠に囚われた様な魔術士達を見ながら、何となくこれから起こる事への期待を徐々に高めていった。



────刹那。



目が眩むほどの閃光が王国の上空、結界内にて炸裂した。閃光が目に焼き付いたまま二回程連続で瞬きをした後。徐々に目が慣れてきたのか、見上げるようにして見ていた頭上の「詳細」を求めて目を留めた。



……私は赤い結界の内側から。気体(ガス)が漏れている時などに見える、揺らめきを見た。結界の内側に(まば)らな火種のようなものが残り、隔てる空気が揺らめいて見えるこの光景に、先程の閃光が結界内に何をもたらしたのか朧気ながら悟る。



ふと、ファブリカの方に目をやる。彼女は黒い燃え(かす)のようなものを目で追いながら、それらが空から落下していく光景を薄らと口角を上げて眺めていた。私は彼女を見た後、もう一度その光景を見上げるようにして見る事にすると、改めて頭上にて黒い何かが降り注ぎ、結界に阻まれ着地する様子を確認する。その(さま)はなんだか、彼女達が行った光景にそっくりだと感じた。


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