023.喧騒/静寂
敷石で整備されている幅の広い道の左右に家や店が建ち並んでおり、商店街のようなものが形成されていた。しかも、商店街と言っても店舗を構えている所もあれば、道に布を敷いた上に商品を並べている様な所もあり、その様子は若干「露店市」寄りである。
こうして実際に人々と同じ目線で景色を見てみると、気になる点が多々存在している事に改めて気付かされる。外から見た外観と同じように、内部の建物を見ても統一感のない不揃いなものばかりで構成されており、異なる材質がとって付けられたような光景に驚きを隠せない。
「オネスティーくん? どうー? これから私達がすることー分かったー?」
「そうですね。この日常を変え得るものを我々は持っていると」
「そうそうー! だから、この情報は正確にー、それに迅速に対応しなければーいけないのですー。そういう訳でー……」
「?」
そう言って。ファブリカは私を追い抜き背中を見せた後、振り返って手招きをしている。賑やかな大通りと可憐な彼女を交互に見ながら、呼ばれるままに駆け寄る。
「はいー、オネスティーくーん! これから走りますよー! しっかり付いてきてねー」
「え」
言葉途中にして、既に動き始めた彼女の足は、壁の方向に進路を定めて一直線に向かう。私は真っ先に走り去る彼女を追う。そこから見えてくる賑やかな、そして和やかなこの光景を我慢して、彼女の背中を捉えながら目的地へと駆ける。
私は、彼女がどのような事を考えているのかは知らぬ間に、城壁……正確に言うと高く聳え立つ「柱」といったような場所に辿り着く。そして、彼女は大きな円柱形をした場所で駐留していた衛兵に向かって、一切息を切らすことなく落ち着いた様子で口を大きく開き、息を吸い込む。
「通達内容ー。トーピード魔導騎士団団長イラ・へーネルよりー。主武装ー。杖槍剣斧ー。陣形は横陣ー。浮遊物ありー!」
それを聞いた衛兵は一瞬体を強ばらせ、目を丸くさせる。そして、すぐにファブリカの口にしたことを理解したのか、まるでその場から飛び出すように、全速力で体を動かし始める。
「────了解です。通達準備に取り掛かってください。……それでは、こちらへどうぞ」
私とファブリカは衛兵に連れられ、円柱形の壁の柱に案内される。
「……お乗り下さい」
衛兵が柱の前で促す様に手を向けると、先程までは何も無かった場所から扉が現れ、私達を迎え入れるかのようにその口を開けていた。まるで、「昇降機」の様にも見えた柱に出現した開閉式の入口。それを見るや否やファブリカは躊躇いもなく乗り込んでしまったので、続いて私も少し遅れる形で乗り込んだ。
「それでは」
乗り込んだ後、囁くように聞こえてきた声の主は入口脇で待機している衛兵。彼は何かの部品を押したかと思うと、乗り込んだ入口の左右が徐々に閉じられていった。それに則して次第に見えなくなっていく衛兵と外の光。私はそんな光景に何となく、不安感を覚えた気がした。
……そして、扉が完全に閉じられる。私は光の消えたその中で、目を見開いて状況の把握に努めたが、その努力はすぐさま必要なくなった。なぜなら扉が閉まり、外の光が消え去った事によって忽ち暗闇へと姿を変えた空間は、その顕著な変化に同調するかの様に改革の兆しを見せたからだ。
内部に備わっている何かが作動したのか、一瞬の濃黒を経た後、外よりも明るく感じる程の光源を感じる事によって、自身の視界を取り戻した。
「おお……」
「これー、初めてだよねー!」
「はい……。私は、今目にしたばかりの柱にこんな仕掛けが隠されていたことに驚いています……」
「ちなみにーここでー、一つ豆知識ーなんだけどー。これはいわゆる太陽光を活用したものなんだー! 吸収してー、光及ばぬ暗闇へー、明かりを灯しているんだー!」
「太陽光……それはいい考えですね」
「んー……?」
「いえ、それでといっては繋がりませんが、……今現状として動き続けているものの、終着点は最上階ですかね」
「だよだよねー。まあでもー、最上階と言うよりはー城壁の上ーって言った方がー的確かもー……?」
「……高いところ続きですね」
「んー? 低いとこなら平気なのかなーオネスティーくーん」
「いえ、地を歩きたい、そんなことを思い始める今日この頃です……」
────私とファブリカは柱内部の空間にて、最上階もとい城壁の上を目指す。
地上から見えた聳え立つ柱に入り口と思われる扉が現れ、そこから柱の内部に入り込んだ。その後は、扉が閉まる事によって今まで内部に差し込んでいた外部の光は完全に遮断された。作り出された暗闇を楽しむ間もなく。光の遮断時と同じくして、電飾の様にきらびやかな装飾が一斉に点灯する。
完全な閉所となった空間。この場にいる事もあってか、かなり眩しく感じられた。屋内といったら間違いのないであろうこの空間で、燦々と降り注ぐ電飾の嵐を一身に受けながら、昇降機特有の感覚が一切感じられない事に感動と疑惑を同時に感じていた私は、ある事に気づく。
昇降機特有の作動感もそうだが、それ以前に、この場が完全な閉所と化した時から「振動」といった揺れの一切を感じることが出来ていないのだ。ただ単純に柱の内部に案内されて乗り込んだ身からすれば、揺れの有無など気にすることではないのだが、私は最上階へ向かうのに揺れも動きも感じられない事から、本当に上に進んでいるのかすら疑問に思い始めていた。
……弾けるような一瞬の空白、そして間もなく床に接地した二本の足から痺れるような衝撃を体全身に感じる。衝撃とともに揺れるこの空間。それを察知したのは自分自身の接地した床によって揺らされているという感覚に気づいてからである。私はここで初めて、昇降機に乗っているような懐かしさを現実的に感じ、改めて柱内部が上に向かって進んでいるのだと認知することが出来た。




