212.危急/蓮華
《瘴気》
それは、薄暗闇といっても良いほど頼りない。私はそのような「環境」に身を委ね、半ば虚ろとなった視界を、ただひたすらに保持し続ける……のだが、歩みに際して起こる一つ一つの挙動が、一瞬、全停止する。いや、させられた、と表現した方が、より正しいとは思うが、思考に塗れ溢れんばかりに詰め込んだ酷使的脳髄、その直接に、これより先は不明瞭であると伝わったのだ。
以前において、半ば当然の如く使用されていた飛行。それをもってすれば、今この現状を容易く捉えられるのであろう。だが当然、この場において浮遊を行えるものは存在しない。確認出来ず、利用出来ないのは、自らの行いの結果である。
選択を重ね、終端として導き出された孤独なる旅路は、記憶として確認される駆動者の存在を顕にさせる。そう、あの瞬間、これより少しばかり以前のことだ。地上より駆動車を用いて移動してきた訳であるが、この……ような得体の知れぬ違和感を、その場より、初めて認識した。
窓が存在し、外部の環境を得られる車内において、そのような存在、地帯が確認出来れば、自ずと意識するであろうが。現状……淀んだ、漆黒的なる「空間」における、この環境については全くもって予想出来ぬ事であったのだ。
・・・・
辺りを取り巻く柔らかな発光。薄布とも思える光の集合は、身体に纏わる。記憶……曖昧なる環境に晒されたせいか、今この場においてどちらが過去であり現在なのかとの境界線が揺らぐも、確認出来ぬ窓の存在と振動の少なさから、一旦の固定に成功した。
降り注ぐ、明るい「恵」を掻き分けるように、自らは全身を稼働させ至るべき終着を胸に継続に継続を重ねる。光源さえ不確かなそれは、帝国の先、自らが求める方角に向かうにつれ、まるで吸い込まれんばかりに……微弱となる。この進行の先に目的地があると定め、更にそうする他ないとの決断と、自身で選択した結論に至るまでに得られるであろう効果を求めて、意を決する。
私は────深く、暗く、淀んだ区域に、足を踏み入れた。
足は泥濘に取られ、思うように動かない。それは先程とは異なり、視界不良の影響を受けた上での結果である故、度合いは、より深いものである。
唐突か否か、その間、時を逃すまいと、今現在に至るまでに経験してきた進行に際して、思考を重ねる。思えば、湿地帯そのものであり、王国と名付けられた壁内以外の歩む土地は通常であれ、水浸しである。だが、それも進行を続ける上で、毎度の如く履物が浸水してしまう訳では無い。
そう、それが通常なのだ。僅かながらの時間の積み重ねで、身をもって体験し、得られた情報から齎された結論だ。しかしながら、この場においては、そのある種発生した常識は通用せず、少しばかりの時間静止し、立ち止まれば、自重により沈下していく。
当然、履物の状態も宜しくない。それを知ったのは、この避けられぬ区域に「足を踏み入れてから」であり、正しく時既に遅しといった具合だ。……つまり、今後においては、ただ考え無しに足を動かすだけでは足りず、加えて沈まないように、考え続けることが今後において必須、不可欠である。
この不確定な環境において。新たなる制約の発生は、好ましくはない。どの場を辿ろうとも、如何に追いやろうとも、無策にて受け入れるべき事柄などでは決してないのだ。




