209.牙城/服属
私は、決する。如何にそれが、悪辣で自己防衛的下賎な考えで、ある一方においては……全くの逆効果、意味が無いことだとしても。どちらに転ぼうと「書き残すこと」に意味があるとし、この場を去る旨を書き記した。勿論、それを最後とは考えずに。
最も傍にて確認出来るイラ・へーネルの頭部付近にそれを置き、余ることによって保存されていた別枠の「二足草」を回収した後、薄暗闇の中、下段へ向かって進行を始める。意識的に慎重を期す事柄であるが、得られる環境も影響してか、より過密に運動における「管理」を徹底する。
だが、如何せん発生してしまう多少の物音、足音を響かせようとも、彼女達には、一切起きる気配がない。それは、念入りに忍ばせ、無知からなる奇跡を孕んだ体内への侵入が実を結んだ結果である。
心の奥底から湧き出る安堵という感情と、滲み出るように押さえ付けた「目的」へと渇望は、今をもって軌道に乗ったと初めて確かな実感として捉えることになる。その制御不能の眠りを招いたのは、他者からの指示によるものではない……そう、紛れもなく、私の画策であるのだ。
《階段》
見えぬとはいえ一歩、また一歩と慎重に時間をかけて、確かめるが如く進行すれば、踏み外すことはない。そう思えばこそ、安心とは程遠い、偽りの意識を強固に保つことが出来るが、慣れぬことを続けて来たという事実は、今をもって、より過密に伸し掛る。
深い睡眠においても認識阻害は解除されないことを確認した上で、事の成就を噛み締め、次なる目的を何より先に捉えることによって、その他を跳ね除ける「糧」とした。
────私は、ダルミと共に外部へ訪れ、そこで食料の存在を確認した。
サオウとエムラト、目的はその二つの植物であるが、回収を行うといった時に、異物が紛れ込んでいることに気づく。そう……二足草だ。
自らの記憶において親しく思える「異物」が確認出来たエリアは、彼女らにとっての食料調達地点だ。摂取の方法により、睡眠作用を引き起こす危険性に気づかなかったのは……熱処理をしていたため、彼女達は茹でるといった下処理を挟んでいた為である。
知らず知らずのうちに変質して無毒、無害となっていた。つまり、作用を発現させるには、熱に触れることなく、気づかれぬように細かく刻み、完成し高音ではない食品に対して、散らすのが的確だ。……正しく、この結果は偶然の産物、不確定的存在の気紛れによるもの、といえよう。




