207.介在/魅惑
「……このような、感じですかね」
「やったー! 終わったねー!」
「皆でやれば早い! 一人だと大変だもんね!」
「=うん。ゆっくりゆっくり。うん」
自ら全て行おうとしていた片付けは、幸運にも全員で行うことによって、素早い解決を実現させた。イラ・へーネルに対し、監視の任を託すまでの間。私は、開けた「大窓」に張り付く必要がある。当初の環境へと戻った空間内にて。腹を摩り、地に腰をつける様を見れば、準備をせねばならないと実感した。
「よし……。早速休息に……といきたいところだが。流石にオネスティ、一人では責任が大きすぎるだろう」
「その通りなのですよ。……実際、この広範囲を一人で、となると忙しなく首を動かさなくては……」
「あはは! 確かにね! それは大変だ……って、皆……」
「=うん。分かったはいたが、眠気……。うん」
「それじゃあー、へーネル団長とオネスティーくんの二人でならー、補えると思うよー!」
「……まあ、そうなるな。さて。各自準備を済ませ、暫しの休息だ。そして私の次は、勝手に選ばせて貰うぞ」
「え……」
「=うん。気が抜けない。うん」
「抜いてもらっても、困るのですよ」
「ふーん、ダルミー? 団長の視線がー、そっちに向いてるけどー?」
「えっ、まさか。そのような事は」
温かなる表情をダルミに向ける、イラ・へーネル。個人的に……末恐ろしく思えた。
「さっ、ほら早く。急いだ急いだ!」
気前良く促した彼女の言葉に従い、皆一同、纏まりを保ちながら「準備」を始めた。空間内に現れた身嗜みを整える環境、それらを戸惑うことなく使用する彼女達を捉え、少しばかり躊躇うも、仮眠を取るために必要な作業を同様……自らも行う。
口腔内を清らかに洗浄し、速やかに体勢を整えれば、忙しなく進行する次点への訪れは近くなる。未だ素顔の見えぬダルミを除けば、違和感さえ感じられない「休息」への準備。その連続的な行いは終わりを迎え、全ての人員が満足的な雰囲気を纏わせながら、元よりいた食卓の場……その付近にて集まる。
「暫し! 休息だ!」
盛大なる掛け声と共に。その音と遜色ない程の苛烈な連携技によって、私とイラ・へーネルを覗いた面々は就寝へと移行した。布団さえなく、野営的印象、寧ろそれよりも粗末なる「地に直に頭を付け休息を取る様」を見れば、余程効果が出ていたのだと認識する。
「……さて。我々は、この眠気に耐えながら、交代の時まで感じを続けよう」
「いつまで……でしょう」
「ああ、案ずるな。オネスティ、耐えられなくなったら後は任せろ……! 担当としては、あちらを頼む」
眠い目を擦りそうな雰囲気を大いに醸し出している彼女は、揺らりとした腕を動かし、透明なる隔てを指し示す。私は示された方角を確認し、それが山連なる王国とは反対に位置する地点であると悟る。
彼女が担当するのは、その逆。裏を返せば、百八十度の視界をもって、監視せよとの命令である。……しかし、慈悲深く問い掛けた「情け」に関しては恐らく、完遂出来るものでも、ましてや頼るべきものでも、ないだろう。




