206.胎動/愚直
私を主体、主軸とした会話の連続。ひたすらに継続されゆく宴会、上辺の返答、環境の維持。変化さえ許さず、疲労さえ感じる暇の無い宴に、やっと内容といった観点において陰りが見え始めた頃。外の様子さえ意識を向けることは許されず、その為に気づかなかったが。ふとそれを見れば、停滞し始めた内容と同様、空が暗く落ち込んでいることにやっと、気づいたのだ。
「……へーネルさん」
私はあからさまに視線を逸らし、指ではなく目で、それを訴えた。
「お、もうこんな時間か。時が経つのは早いものだな……」
「かなり眠気も出てきたのですよ」
「私もー!」
「眠いよ!」
「=うん。敵来なかった、いつか来るかな。うん」
「ああ、偵察……というより、監視体制を整えた上で、休息を取ろう。外の様もそうだが、眠気を覚えたということは、そうせねばならぬとの合図なのだ」
「で、ですが。それを克服した上での、分担ということになるのでしょうか」
「正しく。交代での監視だ。……確かにそうだな。全員が全員。今現在として、睡魔に襲われているのだとすると、監視者の選考は熾烈となろうな……」
「え……」
分担体制における監視。私は紛うことなく、自らが経験、持ち得た以前の記憶からそう判断していた。この場にいる全員が工作により活動限界を迎えているとすれば、やはりそれを管理する人間としては……。最も効率的かつ成功率の高い方法を考え、実行に移すのだろう。
「さて、皆。最高潮に疲れが溜まっているとは思うが、決めよう。誰が最初に監視を行うかを……」
「私、やります」
「……お! 本当か!」
イラ・へーネルが口を開き、例の言葉を発せれば。沈黙、佇み淀んだ空気を形成させるといった……大層嫌がる彼女らの様を確認した。私は分担であれ、なんであれ、その様子から全員が早急なる休息を求めているのだと悟り、これを好機とした。第一に、監視という名目にて目を瞑らなければ、何を怪しまれることも無く、作業に移ることが出来る。継続的な監視は、外側と内側、その両方に及ぶ。
「……だが、大丈夫なのか? 交代は勿論、私が行おうと思っているが……」
「はい。まだそこまで眠い訳ではありませんから。って、そこまで長くはならないですよね」
「ああ、心配するな。その点については間違いない。今はとにかく、恥ずかしながら私としても眠気を抑え込むので精一杯だ……」
「オネスティさん、頼みましたのですよ」
「兄ちゃん! 頑張って!」
「=うん。ゆっくりでいいからね。うん」
「じゃー早速ー! 崩れ落ちる前にー! 片付け……しちゃおー!」
『おー!』
先陣を切った役割の獲得。彼女らの状態変化を認め、それを監視する口実を「現実」のものとした。先程まで宴の最中であったが故に、手の付けられた料理や、それらを支える物品が、至る所に存在している。元あるべき所に戻し、現状を回復するべく。眠そうな目を擦りつつも、片付けを行い始めたトーピード魔導騎士団を確認し、私は……心底喜んだ。




