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203.脳髄/撚糸


「おー! 抜かりなくー!」



「大丈夫だよ!」



「=うん。わくわく。うん」



「問題ないのですよ」



「よしよし。それでは、オネスティの合流と今後への期待を込めて! ────乾杯!」





全員が食卓囲みて着座し、高らかに上げた杯を空中上にて押し上げる。触れることのない杯から発せられる音は、瓶を開ける音と入れ替わり、形式上の乾杯は清らかに行われた。



時経たずしてイラ・へーネル、そしてオリヴァレスティが待ってましたと言わんばかりの勢いにて料理を口へと運ぶ。



イラ・へーネルとダルミは、開けた瓶を互いに順序良く注ぎ、宴の開始即座に消失した杯の中身を再び満たした。





「オネスティ、どうだ? まずは一杯だ」



「ですね。ありがとうございます」





私は彼女に勧められ、自ら注いでいた杯の中身を取り込む。鋭い爽快感、後から押し寄せる多幸感。常温であろうその液体は、私の体を熱く変えた。





「……これは、美味しい、です」



「おお、そうかそうか! ここだけの話、良いやつなんだよそれ」



「団長が、これを開ける許可をする時は決まって()()時ですからね。感謝するのですよ」





杯をこちらへ掲げ、頷くダルミの表情は、未だ仮面の下で確認出来ないが、決して漆黒なるものではないと予測した。





「ほれ、次だ次。遠慮はするな」





無心かつ狂気的に大鍋と食卓を行き来し、食事を楽しむ二人はさておき、酒そして食事摂るイラ・へーネルとダルミの傍にて「会」を続ける。



崇高なる団長からの気遣いに感謝の意を示し、杯先を軽く下げ、液体を受け取る。今度は既に空となった二人の杯に注ぎ、これを何度か繰り返す。



若干の赤ら顔となったところで、やっと……。

完成し既に満たされている料理に、手を付け始めたのだ。





「……」





並べておいた浅底のスプーンのような食器を用いて、皿に満たされた「液体」を掬い、口元に運ぶ。私は、その運びを逃すことなく確認し、捉えられた光景から、それに倣うように自らも動作を開始する。





「……これは」





二名の動作。そこから少しばかり遅れた食事は、私に衝撃を齎した。労力、期待を孕み完成した料理。香りには期待するも、実際に視界にて捉えてしまえば、それはお世辞にも美味しそうには思えず、口に運ぶことさえ躊躇うほどのものであったのだ。



ただ、私自らが口に運ぶ前に、並んで座りて確認出来る様子を見れば、大変満足そうに放り込んでいる様を得る。故に若干の不穏な心持ちを改し、吐き気抑え胃に取り込んだのだが……不思議と美味であったのだ。



香辛料(スパイス)の聞いた刺激的な味が真っ先に到達し、後から訪れる奥行、重厚な印象を感じさせる塩気と蒸留的存在が、主な味を形成させている。そして、液体に浮かぶ肉、サオウ、エムラトを噛み、味わえばこそ、滲み出るかのように感じられる檸檬(レモン)にも似た、柑橘系の後味が下を包み込み、比較的濃いめの味付けである当料理を調和へと導いている。



以前この多重的な印象を覚える料理を、どこかで口にしたような気がするでもないが、正しくこの期間、この食材数にてこれ程までの「味わい」を形作ることが出来ているということは、それらを作る技術に価値があるのだと悟る。


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