202.批准/梯形
「……あの────」
「そうだ! 皆!」
「=うん。良いもの。うん」
決心がつき、振り切るばかりに言葉を発するや否や、私の消えそうな初動は、案の定オリヴァレスティの宣言によって掻き消された。彼女は、踵を返して走り、調理台の元へと到達する。そして即座に姿を元の位置へと戻すと、その手には「容器」が軽々しく保持されていた。
「オリヴァレスティ、それはなんだ?」
「これはサオウを細かく切ったものです!」
「=うん。お好みで振りかけると良い。うん」
「ちなみに! 兄ちゃんからなんだ!」
反応を伺う。幸か不幸か、オリヴァレスティが自らで持ち寄りそれを紹介してくれたが故に、感覚的揺らぎに侵されることは遠くなったが、依然として許容されるか否かは判断出来ない。最早既に自らの皿にて「料理」を入れつつあるトーピード魔導騎士団面々に対し、比較的嬉々として告げた事実のみを呑み込み、私は決心をつけた。
「はい、沢山あったので、どうかな……と」
「いいと思うよー! そんな食べ方はまだしたこと無かったしねー!」
「味の変化も楽しめそうですね。お好みで振りかけることが出来るのは、嬉しいことなのですよ」
「そうだな。最近は変化がなかったからな。……オネスティ、意外とその線もいけるんじゃないか?」
「それは恐れ多いです。皆さんの努力を思えば私の行いなど微々たるものですから……。それに、こんなに美味しそうなものを前にして、我慢など出来そうにありません」
「はは、それもそうだな!」
「振りかけるものについて、ですか。良い答えなのですよ」
否定は……されていない。熱に触れることに関する性質変化についてや、もとより別枠の存在であることすら認知していない様子である。ただ切り分け、自らで振りかけるのみである行動についてを肯定的に捉え、寧ろ素晴らしきことであると微弱ながら賞賛する彼女等を良くは思えない。
最早理解の出来ぬ反応に心を揺さぶられ、胃に穴を開けかねない程の内部変化を与え続ける環境に頭を悩ませるも、後は一か八か、二足草が上手く溶け出してくれることを願う他ないと悟る。
「さて。全員準備は出来たか?」
立ちながらに皿を満たし、それぞれが食卓を囲む。一先ずは皿を置き、備え付けた杯を中央に向け掲げる。イラ・へーネルの行動、皆の動きに合わせ、同じような姿勢を維持し続けることは、今となっては仕方のないことである。
整い終えた環境の中で、得られるであろう結果を待つ。それこそが本来の目的であり、この杯を上へと掲げる理由となろう。この施設より上面。遥か上空に浮遊する存在こそ、私が望む「環境」なのだ。




