196.循環/区間
「そのつもりだけど……?」
「=うん。どうして? うん」
発せられた疑問、予測され得る疑惑。疑いにも思えて仕方のないほど首を傾げ、こちらへと顔を向ける彼女を、私は冷静に捉える。
「料理……でしたら、完成したものに彩りとしてサオウを振りかけるのはどうでしょう。こう見ると……鮮やかですし」
心持ち冷静なままで、笑顔を浮かべつつ、彼女に向けて極めて自然的に提案する。彼女の返答次第では、私の行いがトーピード魔導騎士団に不利益を齎すと認識され、排斥されかねない。疑われることがないよう……。彩りといった点から繋げていったのだ。
「うんうん……そうだね! 少しだけ茹でないで残しておいても良いかも!」
「=うん。考えつかなかった。いつもより新鮮。うん」
指摘は……行われていない。サオウと二足草を区別することなく、そのままの状態にて「料理」の上に置くことを許可した。つまり、彼女らは以前全てにおいて、茹でるといった工程を経た上での食事を行っており、今回使用される二足草に至っても、何の知識さえ持ち合わせぬまま「食卓」に並んでいたということになる。私が持ち得た最善の情報は、決して不利益とはならぬと、彼女の返答により確信を得たのだ。
「では……これくらいでどうでしょう」
私は、調理台に置かれたサオウの山に手を触れ、壁を作るが如く動作にて分断、手頃な数を確保する。
……成功だ。
オリヴァレスティへの接触、二足草の固守、そして提案の全てが、奇跡的かつ比較的短時間の間に成された。台に置かれた僅かな草々の塊の中に、二足草が意図的に紛れ込んでいるとは思いもよらぬだろう。
「うん! ありがと! そしたら兄ちゃん! ……お願いしますっ」
「=うん。分けて、洗いて、湯に投じる。うん」
私の手により保持された幾らかの草々。それらを見て、内心滲むように笑みを知覚する。これら全てが湯にかけられることなく、添えられる。第一の懸念は脱したが、思えば最終工程として、オリヴァレスティ以外の人間に知識があるか否かが、争点となる。
この小さな個人的範囲の中では。サオウと二足草の区別、そして料理の彩りを追加することは何ら問題ない事として通過しているが……。これより先の「提供」の段階においては、未だ安心は出来ないと、悟っていた。
「分かりました。……このような、感じですか?」
私は傍に置かれていた未分類の草の中から、手頃な大きさのものを選び、それを葉から茎にかけて出来るだけ均等に分割してみせた。基本的な二股植物の形態をしている為……。彼女の説明から予測した、分けるといった行為に迷いはなかった。
「そうそう! そしたら一旦この中に!」
「=うん。纏めてまとめて。うん」
半ば過剰な自信と、事の流れの順序を考え……思い切った行動に出てしまったのだと、彼女から発せられた肯定の言葉を聞いて自覚したのだ。
「この中ですね」
「どんどん入れていこ!」
「=うん。満杯になるまで、草分けて、入れよう。うん」
オリヴァレスティは自らもサオウを分割しながら、家庭用……よりは、遥かに大きい寸法をした笊のようなものを指し示す。素材としては正しく植物性のものに見え、色合いは明るく、若い木目調である。私が先立って行った、軽率なる分割を確認した彼女は、その二つ全てを、台の上に置かれていた笊の中へ溜めることを指示したのだ。