195.症候/自閉
「よーし! こんなものかなー!」
二倍の速度。単純に計算すれば、作業効率が向上する。例に漏れず、私が呼ばれた訳もそこにある為。ファブリカとの共同作業の結果、時さほど経たずして、全ての肉の回収に成功した。
「お疲れ様です」
「ありがとうー! オネスティーくん! 助かったよー!」
「いえいえ。他に手伝うことはありますか?」
「うんうんー! 大丈夫だよー!」
「分かりました。メノミウスの肉については、ファブリカさんにお任せします」
「うんー! 勿論、任せといてー!」
「はい。それでは、そろそろ次の救援に向かいますね」
無駄に広い空間内にて確認した、新たなる救援要請。
私はそれをファブリカとの作業を終えた後に気づいた。
「おーオリヴァレスティー! どうしたのー?」
オリヴァレスティ。そう、彼女は紛うことなく、オリヴァレスティだ。彼女こそが、私のサオウという希望に最も近い担当官……である。その存在が自ら、接近してくるとは何たる好機。私はこれを逃してはならず、もしそのようなことがあれば、未来に暗雲が立ち込めると悟ったのだ。
「それがね……ちょっと困ったことが……」
「=うん。手助け必要。うん」
「私が行きます」
「オネスティーくん! そっちも頼んだー! オリヴァレスティー! 待たせてごめんねー!」
去り際に放った言葉により。私が前より既に、オリヴァレスティの接近を察知していたことに、彼女はとっくに気づいていたのだと判明する。返答に関して後を追う間もなく、自らの役割へと戻ったファブリカを後にし、私は慎重かつ冷静なる心持ちを維持した。
「こっち!」
「=うん。お願いします。うん」
中央に存在する食器の置かれた机。その場を挟んだ地点に位置する、二者の作業場を交互に視線を向ける形で確認した後。私は、指をもって示されたオリヴァレスティの活動場所へ赴く。力を込めて進行しているためか、先導する彼女に数歩歩いたばかりで、到達……接近してしまい、これは宜しくないと力を緩め、到着する前には、節度ある統制的な「歩み」を行うことに成功した。
「あのねー、思ったより量が多くて……困ったことに一人だと時間がかかっちゃいそうなんだよね! だから早速、サオウを二つに分けて欲しいんだ!」
「=うん。分け、洗い、湯へ。うん」
先頭の彼女は足を止め、こちらへと振り返りながら言葉を発する。自らが心掛けてきた距離の確保に気を取られ、一瞬反応に遅れるも、即座に通常を取り戻した。極めて鮮明なる視界には、彼女が担当する作業台が存在し、その上には見間違うことなど有り得ぬほど……露骨に置かれた「サオウ」が確認出来た。
「分かりました。……その前に」
目的地点への到達といった逃し難い機会を理解し、これより先に起こり得る、あらゆる不安要素を一旦蔑ろする決断を下す。疑われかねない決心を行い、脈打ち激しく鼓動する心臓を感じながら……私は、オリヴァレスティを正確に捉えた。
「んー?」
「この、サオウを割いた後、全てを湯に投じるのですか?」
発した言動。仮にサオウと二足草についての区別がついていた場合。この質問は、自らの首を絞める要因に、十分成り得るのだ。