193.啓示/弑逆
《縁、上面》
私に声を掛け、合図をしながら足を動かす。背後を振り返るように帰還を促したダルミは、歩みを進め斜面から脱した辺りで、手を振る。それに呼応するが如く、先程まで地面や空が映っていた視界に建造物が現れ、その先の光景は隔てられた。空間から朧気ながら現れた建造物は紛れもなく監視塔であり、この事から食材を調達していた場所からの離脱は、内部に残る彼女達にも伝わっているのだと悟る。
「やはり完全に、見えなくなるもの、なのですね」
「侵入に成功したと思えば、突然目の前に見えない壁が現れそれに衝突……なんてことはそう少なくなかったのですよ」
「それは……何とも恐ろしいですね、考えてみれば納得です」
「その力を維持する為にも、私達の働きが重要、ということになるのですよ」
「ですね。行きましょう。見えるようになったことですし」
・・・・・・
《監視塔》
現れた建造物。そこから吐き出すように伸びる階段を上り、二人で中身を零さぬよう、適度な力加減を心掛けながら、内部へと到達した。
「おつかれー! どうー? いっぱい取れたー?」
真っ先に言葉を発したのは……ファブリカ。彼女は認識阻害を齎し、それを維持するべく多量の食料を必要とする張本人である。
この場を後にする前。トーピード魔導騎士団の面々は、八角の面にて監視の任に当たっていたが、今回に至っては……その様子はない。代わりにといっては相応しくないであろうが、中央に置かれている食卓と、周りに並べられていた椅子の配置を見て、私は悟ったのだ。
この見渡す限り「大地」である光景を齎す、透明な隔て。そこから確認出来る外部の様子を思えば……。彼女達は食卓を囲みながら、異変を捉えるといった同時進行を行おうとしているのだと。
そして。ファブリカの言葉によって、入口付近に集まりだした残留物が、二つの力によって運搬されてきた内部に熱烈なる視線を向けていたことに、ダルミとの食料調達を終えた私は、ようやく気づいた。
「問題ないのですよ」
「ふふふ、二人ともありがとうー!」
「備蓄可能な数量なのですよ」
「やったね!」
「=うん。あっ。うん。」
ファブリカの位置から見れば、少しばかり離れていたオリヴァレスティが、唐突に声を上げる。その突飛なる音声に気づき驚いたか、後発の彼女によって、その後の言動に関しては、噤まれた。
「ご苦労だ。食材はこの上に。準備は既に出来ているからなぁ、手早く進めよう」
微妙な雰囲気を振り払い、的確な情報、指示を与える存在。それは紛うことなくイラ・ヘーネルである。彼女は、何やら……。机に並べられた様々な機器、器具に向かって視線を向ける。未だ宙を浮く食材。団長の指示、ダルミの合図によって、傍に建てられた仮設的な四脚の棚の上へと移動する。そして、既に集まりだしていた中央の作業場へと赴く。
「二人の献身的な行いの結果、準備を行う時間を得た。調理に使用する器具であったり、調理空間の確保、即応的な保存準備も整えてある」
「後片付けも、簡単だしね!」
「=うん。魔素溜りが枯渇したとはいえ、備えがありますからね。うん」
「その分注意をしなきゃいけないこともあるけどー、まあ気張り続けても……ねー」
「ああ、食事も立派な活動の一つだ。これを疎かにすれば悲惨な結果となろう。つまり、食材、手段を得たという今、これより行われることは自明である」
「そうなのですよ。団長、指示を」
「よし。ファブリカはメノミウスの肉を、オリヴァレスティはサオウ、私はエムラトの下処理をしよう。そしてダルミは湯と味付け、オネスティはその他調理に使用する器具の管理を任せる」
イラ・へーネルは的確に、これより行われる調理に関する指示をする。配置と分担が成され、役割を得た魔導騎士団面々は、早速作業に取り掛かる。私は彼女達の迅速なる動きを見ながら、身体を強ばらせ、その場から動けないでいた。勿論、調理器具の場所が分からないことはなく、調理台の上に置かれた様々な形状をした物体を見れば、用途は察することが出来る。
────硬直の理由は、イラ・へーネルが行った「人選」にある。