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191.弱者/断頭


にこやかなる表情を(はら)みながら同意の意を示し、ダルミ先導のもと他の面々と別れ、階段を(くだ)った。実際、異様なる空間からの離脱が叶ったことを好機とすべきなのだが、得られた環境に(むせ)び泣き喜ぶよりも、単独行動を行えなかったという誤算を大きく実感してしまう。今後の永続的な願いが、それこそ(しん)に達成されねば、到底好転は望めないであろう。



現状。フェルニオールは消え、当面の害はないかとも思えた。だが、明確には言い切れず、未だ確認出来ないシュトルム残存勢力、帝国の関与から予測される増援などに気を配らねばならない。



監視塔にて留まる彼女等の目的は、(まさ)しく、そういった外敵に対する窪地の防衛である。ファブリカの並々ならぬ態度。得体の知れぬ人外の存在。何らかの因縁があると思われるが、それが明るみになる(きざ)しはない。本人は普段と変わらぬ様子に戻り、それを周りの連中は囲むばかりで突こうとしないため、手出しが出来なかったのだ。自らでも不明瞭である到達地点への不確かな試みは、当然困難を極め、未だ揺らがず指し示すことの出来ないでいる私の未熟さが、不利益の原因であると痛感する。



私は私として、自らが観測するものとは「別の存在」に意識を置いて振る舞うことが出来れば、(おの)ずと脅威としての判定を弱め、(した)しいものであると誤認させることが叶うと信じている。例え、少しの期間であれ。こうして隣に居れさえすれば、あなたがどのような腹をしていたとしても、素敵な関係を築けるはずなのだ。





「ここからだと、皆さん、見えないですね」





彼女等がこちらを確認してさえすれば、再び目視することは叶うだろうが、後ろを振り返ればもう既に、監視塔の姿はなかった。





「そうなのですよ。認識阻害、機能していますね。今後の為にも腹拵(はらごしら)えなのですよ。……オネスティさん、食材としては、あの辺りなのですよ」





少しばかり歩みを進めると、ダルミは目的である食材の調達地を指し示した。下部に広がる湿地。その場とは似つかない、比較的乾燥した丘に存在する緑。確認出来るそれら植物的印象を見れば、都合の良い環境であることに気づく。





「外側に生えていたのですね。通りで見えないわけです」





魔術駆動車に乗り、進行してきた方向に戻るのではなく。監視塔の反対側へと周り食材調達の道のりとしていた私は、植物的存在を窪地の外側より確認していた。内側は岩石的な岩肌で緑はない。外側、そして先程まで監視塔が(へだ)てていた影響にて、唐突な出会いとなったのであると実感する。





「ええ、内側は岩だらけですからね。ほらあそこ、ですよ」





少し降り、斜面から植物的存在を確認する。

この場は、監視塔から(さぞ)かし見えずらいであろう。





「……この紐のようなものが、エムラトで、これがそのまま摘み取って食べれるサオウなのですよ」





エムラト、それにサオウ。聞き覚えのない(つる)性の植物と背の低い植物を見れば、(いく)らか目立った特徴が存在している。

エムラトは地中から蔓が伸び、幾本に枝分かれしていることから、今は見えぬ連結部分の存在を仮定する。

サオウに至っては葉が大きく、四五本に根元から分裂しているところを見ると、私の知る二股系一般流通植物に酷似(こくじ)している。





「……ッ!」





汁物とするのが定番であろうとそれらの存在を確認し、記憶と重ね合わせていた最中(さなか)。私は、すぐ傍に別種の植物が生えていることに気づいた。当然の如く同伴者であるダルミに情報を共有しようと口が動くも、この「危険性」についてを咄嗟(とっさ)に理解し、(つぐ)んだ。



何を馬鹿なことを、と自らに嫌気がさす。隠れるようにして生えている植物はサオウの傍に寄り添っているのだが、あの様子だと間違って取り込みかねない。サオウに良く似た別種の植物、それは「二足草」という私の良く知るものであり、この少量にも満たない奇跡的な存在の事実が、私の()()を大きく左右すると悟ったのだ。


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