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018.奇襲/異物


「奴ら。まだ我々が追っている事に気づいていないようだな」



「ですねー、後ろも気にせず逃げるとはー。なぜあんなにも急いでいるのでしょうかー……?」



「あそこまでだと、気づいているが撤退を優先しているとも考えられるな」



「たしかにーその可能性もー捨てきれませんねー!」



「なんにせよ、聞いてみる必要があるな。それも早々に。嫌な予感が伝わってくるよ……。ファブリカ。あの距離からこのまま詰めていくと空間断絶でどれくらいやれる?」



「確実なのはー二人かとー!」



「よし、それで十分。先頭を最優先に頼んだぞ」





イラ・へーネルの言葉。それを合図に、ファブリカが乗っていた杖の先端に風の渦が現れる。まるで、竜巻を杖の先で保持しているように見えた。その影響で、こちらまで引き込まれそうである。





「……こ、これは」



「これはファブリカの魔術。風魔術の応用、空間断絶だ。見えない風の刃を防ぐことは空中飛行中、容易ではない」



「……切れた」





周囲の空気を引き寄せられていた風が止み、一瞬。

飛行中であるにもかかわらず、音が消えた。



私は目にする。人が豆腐のように綺麗に切れる瞬間を。まさに、一刀両断。体が二つに別れた後、後から遅れて吹き出した鮮血が二方向から飛び出ているので、流線的な予測の出来ない血の飛び方をしている。



後から血が出てくるというのは日常生活の動作に当てはめると、指を切った時に後から血がゆっくりと(にじ)むような感覚に似ている。それが体全体の大きな切れ込みから出てくるのだから、その勢い(あい)まって、注視などしていられない。





「よし、やったなファブリカ。上出来だ。あとは任せろ」





先頭で杖を走らせていた二人が、ファブリカの空間断絶によって奇襲される。結果、後に続く四名は突然の襲撃と先導者の喪失(そうしつ)によってか混乱し、進行もままならない状態になっている。



騒然(そうぜん)たる光景をイラ・へーネルは冷静に見()えながら、自らが乗っている異系統二色(ツートンカラー)の杖に触れる。そして、こちらに向かって自信ありげな笑みを浮かべた彼女は、自らの手を逃げ(まど)う彼らに向けて掲げた。



奇妙な行動の果てに、先程のファブリカの魔術のように黒い(もや)のようなものが彼女の手に集まり始める。集約(しゅうやく)をみせるそれは、私は初めて前線基地に降り立った時に目にしたものに良く似ている。





「……最後尾の者は、視力を奪ったまま生かしておけ」





隣で飛行している私の耳に、不穏な言葉が入ってくる。彼女に集まる暗闇と、聞こえた声。それらを掛け合わせ、一つの答えを導き出した丁度その時。限界を迎えたのか凝縮されていた(もや)は彼女の手から溢れ出し、まるで吸血対象を見つけた「(ヒル)」のように空を一直線に駆けたのだ。



遠方に漆黒の靄が立ち込め、爆発でもあったのではないかとも思えてしまう飛散具合に驚きつつも、次第に晴れてゆくその中の光景に私は目を疑った。薄れゆく煙幕から私の目に飛び込んできたのは、先程まで驚き慌てふためいていた彼らの目も当てられない悲惨な姿だった。



彼ら後続の三人の体には、所狭(ところぜま)しと細かな点描(てんびょう)が確認出来る。それが大きな羽音を響かせていることから想像できるように、「(ハエ)」のような生き物が体を覆いながら、浮遊している光景が事実として現れたのだ。



私は先頭二人が一刀両断されたときの衝撃より、今も尚浮遊している得体も知れぬ存在に吐き気を(もよお)す。必死で(こら)えながらも、やはりその光景を目にすることは、体が拒否している。このまま見続けたのなら、体がむず(がゆ)いという感覚に支配されそうだ。



私は目を細めながら、なるべく実物を詳細に見ないようにしながら……。視認を分けて続けると(しばら)くして、その三つの塊が落下したことを確認する。



その瞬間より私は、目を自然に開き、この災禍(さいか)を作り出した張本人であるイラ・へーネルに視線を向ける。彼女は開いていた手の平を閉じながら、陰湿(いんしつ)なる不気味な笑みを浮かべながら私を見ていた。





「おいおいオネスティ。何、涙目になっているんだ。これからが本命だぞ。……ファブリカ。確保は無事出来ているか?」



「はいー大丈夫そうですー。このままー引き込んでくださいー!」



(引き込む? 何を?)





彼女は、ファブリカの言葉を皮切りに、自らの手を握り込む。

突然。進行方向後方に、黒い靄の(きゅう)が生成され始める。





「これは」



「これは、我々が今置かれている状況を知るための、道具だ。すこし、整備が必要なようだがな」





そう清々しく彼女は言うが、私の目に映り込んできたのは、紛れもない人間の姿だった────。





「……いや……」



「どうした? まさか同情なんかしているはずがないよなぁ?」



「────」



「なんてこった」



「うーんとねー。オネスティーくん。私たちはこの人達に襲われたー。たしかにーオネスティーくんの時とは違うかもしれないけどー、今回は場合が場合だしー。どっちにしてもー、こんな場所で飛行している訳をー、尋ねなきゃなのでー、こうするしかないのだねー!」



「まあ言いたいことはファブリカが言ってくれたから、いいだろう。私は好きでこんなことをしているわけではないのだ。これは仕方の無いこと。それに周辺にそれらしい魔術反応は他になく、この彼が保有している魔素の反応とダルミが探知した反応は、こう見ても……同一なんだよなぁ」



「まさか、私はただ。どのようにして彼から情報を聞き出すのかなと思考を巡らせていただけですよ」



「そうかそうか。それは良かった。ならば基地に戻り次第、始めるとしよう。オネスティ、私とファブリカの補助を任せる。まあ……これも騎士団の仕事だからな」



(割り切れということなのか)



「……了解です。それで、へーネル団長これから帰還ですか?」



「ああ。対象は消失、次の備えの為の道具も手に入れた。ここに長居する必要は無くなったな」



「……彼らが逃げようとしていた先がー少し気になるではありますけどー。情報も少ないですしー、聞き出した後でーしっかりとーその情報を元にー作戦を練った方がー安全かも知れませんねー!」



「だな。そう考えると早く戻った方が時間に余裕が出来るな……よし、ファブリカ、オネスティ。これより基地へ帰還する」





────私を含むトーピード魔導騎士団は空を飛び、外から来た異物を抱えながら前線基地へと向かった。


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