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188.憧憬/一縷


《窪地/魔鉱採掘場》



空を飛ぶといった芸当(げいとう)に比べれば、いずれかは親しみやすいであろう()()()()()()をこの身で実感する。依然(いぜん)として地を駆ける魔物に乗り込み続けていた私は、接地面が斜面へと移り変わることによって発生する重心と振動の変化によって、目的の場所へと訪れを悟る。





「時が経つのは早いようで……ここを登りきれば目的地へと辿り着く。……しかし、だな」



「そうなのですよ。今のところ、回復の予兆はありませんですよ」



「ああ、それも。未知なる物質を越えても(なお)、だ」





未知なる物質。つまりは、私達が魔素消失における被害として受けた落下の衝撃を、(ことごと)く打ち消した白色の物質だ。彼女達の会話では、その物質の存在からこの現状を理解しようと試みているように思える。





「気掛かりですよねー! でも攻撃性はなくー、(むし)ろ助かった点はー、考慮すべきところですかねー」



「そうだね。思えば、魔素が消えた後に出てきたから、性質的にも何か訳がありそうだけど……」



「=うん。そこに意思が介在(かいざい)しているのか。うん」



「実際、真相はそこにあるのではないかと考え、三人が出払っている間に回収しておいたのだが……」



「この様子ではー、回復するまで待つ……他ないですもんねー」





進行最中、駆動車内部の傾きは元に戻る。(まさ)しく地面に対して平行である座面にて、トーピード魔導騎士団面々は、何故(なぜ)か前方に確認出来たイラ・へーネルに視線を向ける。





「到着だ!」





手綱(たづな)は引かれ、その動作によって進行中であった駆動車は遅れることなく停止する。(なか)ば唐突に止まり、制御自体が強力なものであるせいか、座面に座る面々は速度変化によって、身を(かが)まされた。





「全員素早く降車、警戒しつつ散開せよ!」





イラ・へーネルの言葉により、停止し駆動車の扉は開かれ、外の世界の空気が取り込まれる。視界より確認した外界。最も近くに座っていたファブリカ、オリヴァレスティは順々に降車を始めた。



目標地点、採掘場に到達したとしても魔素が供給されなければ魔術の行使が叶わない。つまり、採掘における作業が中断されたという事実において、彼女達が行おうとしていた行いにおける重要性を思えば、この現状も妨害行為の(たぐい)なのではないかと思ってしまう。



しかし、魔素を吸収し現状を(もたら)したのは(まぎ)れもなく私であり、この場での魔術行使を阻害した罪は、如何(いか)に画策、暗躍であったとしても、消える事の無い事実として存在している。



様々な考えが過ぎる中、自らの順番が訪れる。

私は駆動車から飛び出し、地に足をつけ、一直線に走った。



────その(ほか)を振り切るように。





「……ダルミ!」



「問題、ないのですよ」



「……ファブリカ、異常は」



「見えないですー! 動きはありませんー」



「よし……オネスティの位置にて集合だ!」





盛り上がった大地の先は見えず、その環境へと飛び込むべく一直線に駆けたのだが、散開するなり彼女達は一箇所に集まる。(ゆる)やかに登り、そして(くだ)る分岐点。それが窪地の(ふち)であると知れば、自らの行動は無意味であるかのように実感させられる。



採掘場といえども、目立った特異性は土の中で埋まっていた射出具のみであるという予測と異なる印象は、既に空の上から得ており、それを実感として再びこの目で目にすれば、情報に対する欲求が浮かび上がる。私は(いず)れにせよ、この場の全容解明に取り組まねばならないと、自身の身とトーピード魔導騎士団を(うれ)いた上で、(あさ)はかなる意志を固めていた。





「……全員いるな。これより採掘場の防衛を開始する。監視塔へ向かうぞ」





この場所は当初より、窪地であるといったこと以外の特筆すべき点は確認出来ず、その他何も存在し得ないことから、極めて自然的な印象を受けていた。イラ・へーネルが口にした今後の移動地点。監視塔なる存在は確認出来ず、現地点、窪地の最上面に沿って、私はただ歩みを進めるしかなかったのだ。





「……監視塔とは、どこにあるのでしょうか」





私は少しばかり歩き続けるも、説明すらなく黙々とした進行に居ても立ってもいられず、最も(そば)にいたファブリカに問い掛ける。





「それはねー、この先ー!」





返答する彼女が属する並びを見れば、私との位置関係の差が明確に確認出来、それは偶然ではないように思えてしまう。それこそ、イラ・へーネルが先頭として並び、適度な間隔を開けながら辺りに気を配る(さま)は、ある種の行進のように思えたのだ。





「この先、ですか?」



「うんうんー! いずれ見えるようになるからねー!」





湿った大地に存在している、盛り上がった土地。空を目指す魔鉱の土台や監視塔を含む、一切の建造物が確認出来ない自然の中で、私は進む。下部とは変わって乾いた土地を、自らの足にて踏みしめながら、得た答えを噛み締め、列になって進む。……(いず)れ見えるであろう光景を、ただ求めていたのだ。


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