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187.罪業/沈着


現状。私は進行方向に沿った後方席に座り、その隣にはファブリカが足を閉じ、行儀良く座っている。団長は手綱(たづな)を握り、駆動車を操作しているようだが、私の位置からは背中でその様子を捉えている。また、その左右においては、オリヴァレスティとダルミが向かい合わせの状態であることも、こちらから確認出来る。



現在。窪地つまりは、魔鉱の採掘場を目指し舗装されていない湿地帯を進行しているが、これが(もたら)されたのは、ある種の必然に思える。



私が考えるに、フェルニオールに対して並々ならぬ感情を抱いているであろう、ファブリカの存在がある以上、空からの偵察に移行するのはさておき、(いま)だ正体不明の白色が地上からの移動を阻害したのではないかとも思われるのだ。



察することの出来る要因の(いく)らかを思い浮かべれば、先に魔鳥を出し運用し、フェルニオールによる攻撃を受けた事実は、彼女()の選択によるものであるといえる。



それを後悔しているのならば……と思うところもあるが、空からの視界確保、フェルニオールの捜索という目的があったが為に仕方がない。尚更(なおさら)、運命的結果を(うれ)うことになるとは、イラ・へーネルも、フェルニオールも思ってはいなかったであろう。



対象となった魔鳥の消失、少なからず時間の(かか)る移動は、これより先何を齎すのか、未だ全くとして不明である。次々と駆動車に乗り込んでいく面々に(なら)った私は、依然(いぜん)として起きた現状に整理を付けるべく努力をしていた────。





「そういえば、この子っていくらでも走れるの?」





駆動車によって発生している音は「絶え間なきもの」であるが、その内部は静寂に包まれているといった背景を知れば……納得出来るであろう異様な空間の中で、私は一人、思考を重ねていた。



突然その空間を食い破るかのようにして聞こえた一つの音は、(まぎ)れもなくオリヴァレスティのものであり、極めて少女的な印象にて発せられる言葉は、彼女の特性であると実感する。



こういった場面において、忌憚(きたん)なく……いや(むし)ろ自らに忠実であるであろう彼女自身の動力が発揮されていることを転機と悟り、若干下を向いていた私は、視界を更なる高彩色の方向へと移動させる。





「=うん。採掘採掘。うん」



「……ああ、魔物だからな。……原理としてはオリヴァレスティも良く知っているものと同様だ」





団長は手綱を握りながらこちらへと身体をずらし、会話を始める。

私はここで、背中のみであった彼女の姿を、より正確に捉えることになる。



オリヴァレスティは答えを得た為か(うなず)き、腕を組みながら納得したような表情を見せる。しかし、彼女とイラ・へーネルの関係性は、不明瞭であるが、薄くと受け取った印象からは、決して浅いものではないと考えられる。



私は(ひそ)かに、この質問に対する答えを質問者は既知(きち)であり、この問答には別の目的が……。……そう、見せているのだ。まるでそれが、明確なる観測者に向けたものであるかのように。





「団長ー? 目的地に到着したらどうするのでー?」



「そうだな。早速オネスティに、その潤沢(じゅんたく)なる魔素量にて手伝って貰いたいところであるが、備えをしない訳にもいかない」



「……ファブリカ、あれなのですよ、あれ」



「ああー! 隠してあるやつねー! うんうんー! 分かりましたー!」





ファブリカは肩を揺らし、ダルミ、それにオリヴァレスティの二人に対して「指」を交互に指し手を叩く。それが、何を意味してのことなのか一切分からないが、これから行われようとしている目的地での作業が彼女にとって喜ばしいことなのだということは(うっす)らと理解した。





「何があるか分からない、それに魔術が使えないのでは作業は難しいしなぁ?」





不敵な笑みを浮かべながら、こちらに向かって問い掛けるイラ・へーネルは、今までと変わらぬ印象へと戻っており、私としては、少しばかり魔鳥の件における支障の存在を気にしていたが、流石に団長であると実感し、鈍重(どんじゅう)に、首を縦に振る。





「は、はぁ……」





再び背を向け、魔術駆動車……魔物の操縦に専念した魔導騎士団の団長を複雑な気持ちにて視界の端へと追いやる。



隣にいたファブリカが、こちらの(そば)へとより何事かと思うが、それこそ私の傍、顔の位置から確認出来る外の様子を「窓」のようなものから確認するために、行った行動であると早々に知り、心を安静なるものへと向かわせた。



駆動車は、かなり距離のある窪地へ戻るための足として……消えた魔鳥の代わりとして運用されており、どうやら原理は魔鳥と同様であるようなので、魔素がなくとも心配ないそうだ。



私としては、どちらにせよ。隣の女性の意気揚々たる様子や、背中で語る前方の団長、特に起伏のない二名の存在を思えば、確かにこれより行われようとしている関係性は清らかなる心持ちでは受け取れない。



今後の作業が、私にとっても関係してくると判断出来るが故に、少しばかりの嫌悪感を抱いてしまうのだ。そのように感じた自らを思えば、それはまるで、私の心が……未だ弱いのであると示しているようであった。



────(のが)れられぬ空間にて。



揺らぎは外側からも内側からも、感じる。


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