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186.颯然/切替


「よし、戻るぞ」



「了解ですー!」



「……手段は?」



「=うん。あの人の言う通り、距離ある。うん」





細かく集まる不快生物によって覆われた()()については、これより先の状態に目を(つむ)りたくなる程悲惨である。そんな様子さえ目もくれず、イラ・へーネルは先導を行う。最早(もはや)正体の分からぬ集合体から少しばかり距離をとる形にて移動し、静止する。



思えば、ここまでの道中。魔鳥の力なのか、強靭な翼から得られる推進力によって、そこまで時間は掛からなかった。しかし、現状ここまで乗ってきた移動生物は消失し、窪地まで戻る手段を失っている。窪地からみた場合。こちらとの距離は、フェルニオールが言うようにかなり離れており、一刻も早く戻る必要があると実感する。





「それは、地を駆けるものに頼むとしよう」





先程起きたばかりの出来事を思えば、少々希薄かつ淡白に思える発言。

声の振動や、表情、それらから齎される全体的な印象は、私の予測していたものとは異なるものであった。



薄気味悪ささえ感じさせる団長は、それこそ唐突に自らの口に指を入れ、赤黒い球体を取り出す。そして、地面に投げつける────さすれば魔術駆動車、つまりは車輪のついた四角い魔物が現れたのだ。





「……なんだこの空気感。お前らが変化してどうする」





イラ・へーネルは、魔鳥の消失が確認された先程より、暗い印象へと変化したトーピード魔導騎士団の面々に気づく。この変化した場、不鮮明な空気感を察知し、これを打開するべく行った「言葉」であろうが、その計らいさえも彼女の印象を暗く濁らせる。私としては、使役していた本人が、そのような口ぶり、態度であるならば、(あらかじ)め構築していた認識に差が生まれてしまうことは、疑いようのない事実なのだ。





「……なるほど、駆動車で移動するんだね……!」



「=うん。すっかり忘れて。うん」



「ああ、即時撤退だ。目標は採掘場。……ファブリカ、ダルミ、問題はないな?」



「はいー、異変や問題捉えていませんー……!」



「問題ないのですよ。出発可能ですよ」





私には、イラ・へーネルの口から取り出され現れた「四角い魔物」について、見覚えがある。帝国の魔術士に対する偵察にて使用したのが、この魔術駆動車であり、移動手段として運用することが可能であると記憶の中より思い出す。





「了解だ。全員、乗り込むぞ」





イラ・へーネルは、少しばかり不鮮明かつ揺らでいるように見える。今や私の位置からでは詳細を掴むことは出来ないフェルニオールの現状を、この期に及んで確認する素振りさえ示さずに、我先にと駆動車の扉を開けた。



彼女は、全員に手招きと視線を送りつつ、ダルミ、オリヴァレスティと順々に乗り込んでいく様子を確認する。そして、最終的に乗り込んだファブリカを目で……追う。





「じゃあな、トール」





最後に乗り込んだファブリカと共に乗り込む直前。イラ・へーネルは、吐き捨てるかのような冷淡的印象を浮かばせながら、どこか遠くへ言葉を発した。小さく聞こえた声の主の目は、寂しさを含んでいるようにも見え、発した言葉に含まれる聞き覚えのない箇所は、哀愁の最奥(さいおう)であると実感したのだ。


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