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182.残穢/幻惑


一部始終を捉えていた私は、まるで「恐怖」を題材にした映画を見ているような感覚に陥る。それこそ、薬物患者にでもなったかのように、一人取り残された不測なる閉所にて、胸を押えたのだ。



(……っ)



安寧(あんねい)を祈るより、今現在直面する身の滅却に対する手立てを得なければならないと、何をするでもなく一人孤独に考えることだけ考え、奔走し、取り組んでいた。



急に締め付けられるように痛くなる心臓を気遣い、意識しなければならない事態に違和感を覚える。辺りに立ち込める黄色煙(おうしょくえん)、これより向かわねばならない脱出口の両物(ふたつ)に押し潰されそうになりながらも、歩みを進める。



ファブリカの最終確認地点に辿り着き、身を乗り出すようにして下部を覗けば、二人の無事を確認出来、依然として変わらぬ白色物質の上で、この穴を見上げている。



私は、彼女達の姿を捉えているが、対する二人は私を捉えていないように思える。手も振らず、反応さえ見せずに、ただ無表情のまま「穴」のみを確認する様は、極めて自分を遠い存在に感じさせる。



外から穴を見るのは困難である、といった幼稚な考えに逃げそうになるが、迫り来る煙幕とファブリカの重複……目の良さを思えば、彼女の視界は鮮明なのだと認めざるを得ない。



今こうして、やっと一人になれたというのに……私は再びあのような場所へと「落ちねばならない」のだと、諦めにも似た感情を抱く。



自らの視界からこの穴を通し、隔てる様にして変化した環境を捉えれば、二人の存在するあちらの空間は、泥濘(でいねい)混ざりあった醜悪な色彩であると、信じて疑わなかった。





・・・・・・





────落下。



若干の風を肌に感じた後、弾力面に到達し、落下に伴う運動を受け止める。足から落ちるも痛みなど一切なく、かえって衝撃の感じられない様子から、違和感さえ覚える。そして、切り替わるようにして変化した視界にはファブリカ、オリヴァレスティの両者が映し出された。





「おかえりー」





淡泊なる声。変わらぬといえばそうだが、自身でもここへ飛び降りる前に様々なことを考えてしまっているせいか、素直に受け取ることはない。足に力を込め、静止しようとするも不安定なる環境のためか少しばかり揺らいでしまう。それを見てか、ファブリカは私の手を取ることによって、手助けとした。一連の行動に意味を見出すでもなく、ただ落下に伴い下を向いたままでいた私は、彼女の姿を視界で捉えるのが、怖かった。





「戻って来たよ団長! どうする?」



「=うん。調査か離脱。うん」





彼女の手助けもあってか、地に降り視界を確立させるなり、先程より行動していたオリヴァレスティは第三の存在について示唆する。更に、場面の変化に対応するより先に、自らの居心地を最優先したが為に、得るべき情報を蔑ろにしていたことを悟ることになる。





「ああ! 液体の存在について理解した。故に離脱する」



「中身とか、見ておく?」



「=うん。シュトルムがいるかいないか。うん」



「魔術が使えない今、その内部環境は危険だ。更にいえば、時間があまりない。敵の増援が来ないとも限らないしな!」



「今のところ反応はありませんが、この様子ですとあまり長居は出来そうにないのですよ!」





私は第三の存在、真っ先に捉えた言葉よりイラ・へーネルの存在を確認する。それに伴い視界を固定させれば、黒光りする羽根を隙間なく蓄え、依然として変わらぬ発疹を携える黒い鳥と、そこに乗り、浮遊するダルミの存在を目にすることになる。四辺に割れ、返しの付いた黄色い(くちばし)、肥大化している足や、(とろ)けた表面などを思えば、紛うことなき彼女の使役物であると判明するのだ。





「……?」



「どうしたのー?」



「いえ、その、魔術は使えないのでは」


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