017.襲撃/確認
「そうだともファブリカ。生身での飛行経験はないそうだ。……よし、オネスティ。村から戻ってきたときの感覚は覚えているか?」
「……あの時のですか?」
「ああそうだ。君は私が召喚する魔鳥に一人で乗り、空を飛ぶんだ。我々は魔鳥を必要とせず、そのまま魔素を利用して飛ぶことが出来るからな……私はこいつで行くが……やはり、これで二人は厳しいな」
「私もねー! ごめんねー……!」
そう言ってイラ・ヘーネルとファブリカは、困り眉にて自身の杖を見る。
「……ほれ」
「ギギィ、ギィ、ギギィィ……!」
(また……)
彼女は何時ぞやのように指を動かす。
生み出された円によって、魔鳥を出現させる。
故に……私はこれから、この子に乗って空を飛ぶのだ。
「会敵し戦闘となった場合に、もしもの時があればヴァシュロンで攻撃してくれ。しかし、あまり気負いはしなくていいぞ。あの時餌を与えることが出来たお陰で、十分に戦えるからな」
「餌……あの時、餌をあげたのは……」
「ああ、そうしないと私の魔鳥は機嫌を悪くしてしまう。餌を与えるのは使役者にとって重要なことなのだよ。……まあ、そこまで頻繁にではないが、なあ」
(なるほど。あの時の餌やりは、彼女にとって欠かせぬものだったのだな)
「私もこの子に救われたようなものですかね……」
「はは、そうだな。こいつも、その気でいるだろうよ」
「ギッギッギィ!」
(喜んでいるのだろうか。いや……?)
「ははは。そうかそうか。君を乗せて、早く空を飛びたいそうだ。────さて。そうとなれば、出発しようではないか」
「……はい」
私は出現した「魔鳥」に乗らせてもらう。
あれこれ考えているうちに、団長とファブリカは大きく大地を蹴る。
跳ねるように飛び上がった彼女。私が目で追うよりも早く、空で浮遊していた。そして。それに反応するように大きな翼を広げ、衝撃と共に大地から飛び立つ魔鳥。私は、それにしがみつきながら、上昇に伴う負荷に歯を食いしばる。
追従して私を乗せた魔鳥は、空中で身を屈める様にして加速すると、あっという間に既に進行していた団長に追いつき、傍へ寄る。
「……すみません。どうしたら、そこまで自由自在に空を飛べるのですか?」
「うむ……そうだな、飛行などは魔術の得意不得意の問題以前の初歩的な動作であり、出来て当たり前の『一種の基本運動』ではあるな。飛行に際しては魔術の源である魔素溜りが見られるところでしか行うことが出来ず、そこから外れた枯渇地では飛行は出来ない」
「つまり……ここが、その魔素溜りということですか」
「ああ、この前線基地周りは魔素が特に多いんだ。魔素が多いということは、それだけ制御がしやすい。飛行は体内の魔素と地面の魔素溜りとが反応し、お互いに反発し合うことによって得た浮力を用いる」
「……はい」
「つまり、飛行可能な大地を大きく蹴ることによって、飛行者と大地の間に間隔が空き、その反発により、空へと浮かぶのだ。あとは自身の体内魔素を勢いよく噴出、制御してしまえば『飛行』が出来るんだ。まあこれも慣れ……というしかないのだがな」
「先が思いやられますね……」
「よし、ならばこれからも、習得するまでは私の魔鳥の背に乗るといい。そんなに焦らずともいつかは────」
「へーネル団長ー見えましたよー!」
「おお、さすがに目がいいな。ファブリカ、どれほどだ?」
「────未確認魔術反応を襲撃者と断定ー! その数はー最低六名確認ー! 進行方向縦列ですー!」
「……こちらも把握した。襲撃者進行方向縦列につき、予定通り先頭を側面から叩く……いいな?」
「へーネル団長ー、ダルミの言ってた通りー。彼ら脱兎の如くーですよー」
「ご苦労。よし、情報に誤りはないのであれば、このまま、ファブリカの先制攻撃の後、切り込む。……オネスティ。自分の身と僅かな援護はそいつで頼んだぞ」
イラ・ヘーネルは不敵な笑みを浮かべる。そして、私が握りしめている伸縮自在の刺突剣を見る。しかし。その視線の先がすぐに刺突剣から、ファブリカが確認したという方角へと移っていたことは言うまでもない。
────これから空中での戦闘が始まるのだ。




