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178.托卵/気化


────黄色(おうしょく)



信じ難いことに視界が黄土色に侵され、安直であると感じてしまうほどに、「香り」も濃くなっていった。接近に伴い強化された、鼻腔も閉ざしたくなるような腐乱臭は、目の前の存在より感じる。



それほどまでに鮮明な……原因としての存在。

それは、(まご)うことなきターマイト戦略騎士団の本体であった。





「と、到着だねー……!」



「ですね。後は調査……ですかね」



「そうそうー! まずは入口を目指して……まあ上の方だね多分ー!」



「登るということですか?」



「その通りだよー! 私とオリヴァレスティで、上から下に力を掛ければ、何倍もの効果が期待出来るからねー! ……ねー? オリヴァレスティー?」





今や、声すら発しなくなったオリヴァレスティ。私の傍にて、何とか立っている彼女から齎された腕組みを優しく(ほど)き、代わりに手を取る。あくまでも自らで進んでいるのだという意識を失わないためにも、私は、そのような介抱形態を取っていた。





「……えー?」





傘さえ振られず、引っ込んでしまったオービスを(うれ)うも、夢見心地であろう最善の時間はそう長く続かないと悟る。私が支えとなり自立しているオリヴァレスティに向かって、依然として肌の赤らみを保つファブリカが接近したのだ。





「起きろーッ!」





────余韻の無い甲高い音。

乾いた音声は、私の傍で……詳しくは、オリヴァレスティの頬に乗せられて聞こえてきたのだ。





「……い、痛いよーファブリカー」



「=うん。脱出、鮮明。……う、うぇっ。うん」





頬をさすりながら、若干涙目になったオリヴァレスティ。彼女は、そのまま犯人に視線を送る。肩を揺らして、「仕方ない」と答えるファブリカに対して同じく肩を揺らし返答するも、辺りを見渡すような動作を行うなり、口元を押さえた。





「酔い、臭い、どっちー?」



「両方だよ……はぁ」



「=うん。……。うん」



「そんなところ悪いけどー、早速手伝ってもらうよー!」



「分かったよ。登る……んだよね!」



「そうそうー! 三人で分担するからねー! 私は壁、オリヴァレスティは投擲(とうてき)と仕上げ、オネスティーくんは客観的な位置を確認してほしいー!」





ファブリカは事の進みを示し、役割を与えた。彼女は言葉通り先陣を切り、皮膚と(おぼ)しき表面に杭を突き立て、岩表を登るような要領にて一つ一つ安全を確保した上で、上へ上へと登っていく。



ファブリカが真っ先に、雑嚢(ざつのう)から取り出した杭を立て、縦方向左右に連続して作業を続けると、幾らか下部に基礎となる足場が完成する。そこからオリヴァレスティが、見掛けによらず強靭な腕にて杭を投げる。すると、若干生物的であるからか、全体的に湾曲している目標物の前面、その斜面に無作為に突き刺さる。



投げ矢(ダーツ)の要領にて生み出される基礎杭をファブリカが強く打ち付けることによって、より強固なものへと変化し、足場が更に更にと完成していく。この一連の連携作業が続いていくなり、下部から捉えていた山のような要塞に、杭による「道」が現れたのだ。





「それじゃあ行こっかー!」



「出発!」



「=うん。上の空気は……。うん」





万全を期して三人全員の作業が終わり、最終確認を済ませた後に、上面を目指して進行を再開する。時には杭に乗り、時には杭を支えに皮膚をよじ登り、彼女達によって作り出された道を越えれば、そこは展望台のように高いターマイト戦略騎士団の最上階であった。





「よしー! 到着ー!」



「だね! やっぱり上の方は何となく、空気が綺麗だ!」



「=うん。若干だけど有難い。うん」



「大丈夫ー? オネスティーくん」



「……はい、何とか」





下部より眺めたターマイト戦略騎士団の本体は遠くから見るより実感として大きく、それを杭一つ一つの連続にて登るといった荒業は、移動してきたばかりの身体には(こた)える。



こちらへ来てからというもの、そこまで時間が経っていないせいか、身体の動きやら何やら本調子ではない印象である。しかし、そのような状態の中で。とても得意とは言えない命綱無しでの登頂は、基礎体力の差を思い知らされる結果となったのだ。





「んー、見えないなー」





ファブリカは辿り着いた最上階より、身を乗り出すが如く勢いにて首を伸ばし、辺りを確認する。目を凝らし、どこまでも白い地表を探る彼女の様子を目にするや否や、記憶が蘇る。私が辺りを眺め、白色一面の存在に(おのの)いている間。絶えずファブリカは視線を逸らしていない。彼女が言葉にし、彼女が抱いている明確な目標は、今や確認出来ない「人物」にあるのだと……自ずと悟ることになる。





「ま、後で探そー!」





広範囲の白色とは対比的である、集中的色彩を彼女の奥底から感じ、若干の末恐ろしさを感じさせる。





「────それじゃー、始めよっかー!」



「うんっ! 任せて!」





これは好機であると膝に手を付き、若干長めの休憩姿勢を見せつけるも、私が無事であるとの返答を返すなりそれを全てと受け取り、全く気にする様子がない。(むし)ろ、ファブリカは意気揚々と作業の開始を告げ、一方、オリヴァレスティはというと、何処(どこ)からともなく取り出した、見覚えのある手袋の様なものを装着する。



彼女の両手に付けられた籠手のような覆いには、黒色かつ鈍い金属的光沢を(はら)んだ物質が手の甲から指先にかけて張り張り巡らされている。それを保持しつつ、体を軽く保ちながら何度もその場で細かく飛ぶ(さま)を見れば、この後行われることが(おの)ずと分かってしまう。





「まさかオリヴァレスティさん、その拳で……」



「そのまさか! これをこうしてッ────!」


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