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177.破却/邁進


一言二言交わしたのみで、イラ・へーネルと私を含む三人は、白色(はくしょく)の粘質的世界にて作業を始めんばかりのトーピード魔導騎士団から一時離脱した。



少しばかり離れ、ある程度歩かねば辿り着かなかったターマイト戦略騎士団の本体へと近づいていくにつれ、強烈な臭いが立ち込める。



離れた場所では思いもしなかったが、不思議なことに、ある一定の距離を越えた辺りで、何かが切り替わるかのような……それこそ明確な境界線が存在しているかのように、()を実感として捉えることが出来たのだ。



鼻を覆い隠し、一歩一歩前進する。

その足は……吸い付くような白色物質に取られ、重い。それこそ、進行に際して思うことは「億劫(おっくう)」であると、自信をもって言える。



……会話もせず、最初こそ意気揚々と進み続けていたファブリカ、オリヴァレスティであったが、今はこの環境間に淀んだ空気が取り憑いて離れないためか、印象は反転している。



私も即座に、イラ・へーネルを利用して会話を続ければ良かったのだが、思ったより上手くいかなかった。



そして、あれこれ模索し歩み続け、これより向かう先を思考させている間に。

私は遂に、不快の境界線を越えてしまっているという理由を元に、希望の会話を捨て置かねばならないと思ってしまう。



だが、これが延々……いや、今より少しでも続くのだとするならば、それを紛らわせる手立てが……今、必要なのかもしれない。



一度は落下した、諦めへの到達。

回避することは、今の時点、そう難しくはないはずだ。





「あの、ファブリカさん、オリヴァレスティさん。先程の会話の中で、この任務に適任とのことでしたが……具体的には、どのような……」



「ごほっ……。この腐乱したような臭いに対抗出来る力があったら嬉しいけどね! 私のこれは、生物らしい単純なものにしか使えないしね!」



「=うん。魔術優位は揺らがない。うん」



「まーオネスティーくん! 私達は魔術がなくても戦える、そう言われていたでしょうー? それはねー、戦闘の技術心得ているってだけなんだよー。まあ困ったねーオリヴァレスティちゃん?」



「あー、まあそうだよね! いくら鍛えたり、人より少しだけ優れていたところで、才に恵まれた魔術士には到底太刀打ち出来なかったからねファブリカ! 考えることはあるけれど、こうした環境を作り出した……そう! 兄ちゃん! 感謝してるよー!」


「=うん。酷使酷使。うん」





いつになくオリヴァレスティの言葉に厚みを感じる。

明確な嗅覚的境界線を越えた辺り、実感していた違和感により気づいた彼女の僅かな「変化」に確信を抱き始めた頃。



歩きながら流れるようにして、前方に視線を向ける……私はそこで少しばかり赤くなっている面より覗く「肌」と浮つく「足元」を同時に確認した。





「まさか……お二人共。酔ってます?」



「まさかー! そんなことないっての……! それより兄ちゃんー……! 魔術と体術のさー」





いつの間にか。

オリヴァレスティとの距離が近づき、今にも肩に触れそうである。



変化した臭いには、酔いの効果が含まれているのではないかて思い、再度ファブリカに視線を向けると彼女は一人、指を立てていた。





「うんー、多分そうみたいだねー! ……というかー、そういうオネスティーくんはー、変わりないようだけどー?」





冷たい指摘。

まるで酔いを覚ますかのような鋭い問い掛けに、身を震わす思いである。



しかし、その言葉では覚めることはない。

若干として感じてはいるが、目の前の二人の姿を確認しなければ気づかなかった……そのような程度の酔いなのだ。





「気づかれてしまいましたか……あまり外には出ないので……」



「つまり、兄ちゃんも感じてるんだな!」



「=うん。時は近い。うん」



「……?」



「まー、三人揃って影響を受けてるってことはー、出処はあの臭いでほぼ間違いないねー! これ以上悪化しても手に負えないからー、尚更急ごうかー!」





獣のような体をした、かつて要塞であったもの。変化したといって間違いのない姿は近いようで遠く、またその影響か違和感を増幅させる。



硬質なる装甲面が靱やかな筋繊維へと移り変わる。

想像さえしなかった四肢、そして体躯(たいく)から伸びる未知なる線の数々を(たずさ)えた「調査物」を歩きながらに指で示す。



それは、進行に対する区切りの様なものであり、彼女の腕が下ろされるや否や、私を含む三人は、この場から先に進むことを先決なるものとして定めた。





「呼吸は最小限にー! 意識しながら先を急ぐよー!」


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