176.鳩合/検知
それはつまり……。
私から自衛の手段を奪うということになるのではないか。
しかし、腰に吊るされた伸縮可能な刺突剣が存在する限り。
この身の脅威判定は、更新されない可能性がある。
起こり得た事実に対する、最も説得力のある理由。
主として、魔素溜りの消失が挙げられた以上。
それを根源として活動する魔術士の前では……。
どのような事柄も矮小なものと化すのであろう。
私がこのような射出具を用い、多大なる吸収量から齎される莫大な攻撃手段を持つというのが、そんなに……怖いと言うのか────。
「……でも、供給源が無くなったことによって脅威は沈黙しているし、この様子だと帝国の団長との戦闘はないと思う。でも……実際、いつ攻めてくるか分からないし、助けられた」
イラ・へーネルの問いかけに、異を唱えるが如く。
オリヴァレスティは、告げる。
「=うん。それを幾らか放てば……。うん」
「しかし……それはあまりに、なのですよ」
「でも、ひょっとしたらー。勝ち目のない戦いも根本から覆し、飽和させることが出来る点ー……。思えば良い安全策かも知れないねー!」
「なるほど……確かにそうだな」
「それはそうと……え、団長がそういうなら……ですよねぇ」
「これを齎したことが相手にも有効であるとするならば、我々が保管する意味が無くなる……な。改めて聞くがオネスティ。君はどうする?」
再度尋ねられるが、少なからず前回とは異なる。
正しく……選べる選択肢が現れたのだ。
「私は……手段を、手放したくはないです。もちろん、不利益を齎す行いは慎む……そのことを念頭に置いています」
「……ああ! そうだな! 全くすまない! 要らぬ心配を! それに、魔術士が飛行している最中に使えば凄いことに……って、これが出てきて……そうだ」
なにかに気づいたかのように、それこそかなり大袈裟にも見える動きを止め、足元に広がり体を保持する白色の物質に目を向ける。
「不確定要素が多い、今のうちに移動しよう。私は移動手段を。ダルミは、落ちた杖を拾い、残りは調査だ」
移動手段をイラ・へーネル、落ちた杖の回収をダルミ、とのように迅速に定め、次なる行いについて決定する。
こうして訪れた新しい環境においても、得られた事柄による自らの重みを無くすことは、終ぞなかったのだと実感する。
しかし、いずれの場合。
不利益が明らかとなれば、私という存在から手段を奪うことなど容易いのであると……そう理解する一幕となったことは明らかである。
「発生源が分からず、それでいて安全とは言えない。我々は再び空を目指す。……ターマイトの中へ行き、何があるか調べて貰えるか?」
空を見上げ、そう宣言するイラ・へーネル。
突如として加速しながら顔を下降させ、振り戻した辺りにて……。
傍近くで固まっている、私。
ファブリカ、オリヴァレスティの三人に対して指示をする。
今度こそ、笑みは不気味なものではなかったが……。
取り囲むようにして存在している異界の人間を思えば。
それらを用いた、良からぬことも連想してしまう。
だが、ある種……その采配は、下部にて溜まる白色の物質に対する手立てなのだろうかとも、あくまで「希望的」に察する。
「勿論ですー! 歩いてー、行きますよー!」
「うんうん! 魔術が使えないってことは……基礎体力がものをいうね!」
「=うん。中でどんなことになっているのか! どちらにせよ、適任! うん」
「……適任、ですか?」
「ああオネスティ。君は見学だ! 適任なのはファブリカとオリヴァレスティだ。……彼女等は魔術が無くとも戦えるしなぁ。守ってもらうといい!」
さて今度こそ……団長は屈託の無い笑みを浮かべ、大空を飛んでいってしまいそうな程に薄い「雰囲気」を纏っている。
私という存在から射出の危険性を遠ざけた上で、尚且つ調査に赴かせるという人選は、再考すればする程、折衷案ではないかと勝手ながら導き出す。
……そうまでせねば、明らかに考えれば分かる程に危険であろう本拠地に、爆発物を抱えて潜入するという決定に説明が付かないのだ。