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174.屠蘇/淡紫


「了解ですー!」



「了解!」



「=うん。急ぐのだ。うん」



「了解なのですよ」





先行する団長の問い掛けに対し了承の意を示し。

彼女に賛同するが如く勢いにて、上昇を始める。



先程の会話から、移動に関してを注意深く捉えてみれば。

確かに記憶と照らし合わせた場合、その速度に若干の違和感を覚える。



体感的なものとしても、詰まった配管に溶液を無理に通そうとしているかのような、爆発的な加速へと変化していたことから、異変を捉えることが出来た。



……(しばら)く意識しながら退避を実感として吸収させていた訳であるが、その行動が無限のものである筈もなく、遂に静止へと移行する。



遥か上方。(いく)らか冷え込むように思える環境の中。



見下ろすかのようにして変化していた位置から目標を望む。



────静穏域(せいおんいき)



先程まで煙のせいで見えなかった目標は、上方へと移動することによって鮮明に捕らえることが可能となり、変化を確認することになったのだ。





「あの……大きくなってませんか?」





私は思わず口にする。



上空にて見下ろせば、肥大化し……。

各部が(とろ)けるように変貌した(さま)が映し出される。



その姿を目にし、それが全くもって同じものだとはとても言えなかった。





「ああ……一体なんだ、あれは」





視界から得られる情報を共有したトーピード魔導騎士団の面々。



上部より変形した移動要塞を捉える。



異質なる変化を遂げた存在に対してイラ・へーネルは疑問を(あらわ)にさせた。



────腹の奥底を揺らす雄叫び。



突如より放たれた咆哮。

聞いたものの奥歯が(きし)み、全体として統一的反応を示す。



上部より煙幕を通り越すことにより……。

変形的形態を取りつつ上面を除く異物が確認される。



まるで人型の姿をしていた移動要塞は、何時しか四肢をより強固な筋肉で多い、その側面を体毛で覆うといった(さなが)ら、獣の様な姿へと移り変わっていた。





「あれは……人?」



「=うん。いや、獣? うん」





首を傾げながらにこちらを見ながら、問い掛けるオリヴァレスティと目が合うものの、左右交互にて視線を切り替え、答えを思考する。



再び視線の位置が定まり、彼女の瞳の奥にて首を(かし)げる。



……私は、それをもって返答とした。





「どちらにしてもー射出具の攻撃を受けても反応は消えないしー、もう……気づかれちゃってるみたいだしねー!」



「その通りだ。どちらにせよ対処せねばならない。ところで……オリヴァレスティ。袋の中身は無事か?」





今や杖にて吊るされるかのようにして保持され……。

イラ・へーネルは、運搬している袋を捉え、尋ねる。



オリヴァレスティは……。

軽々しくも袋を摘み上げ、半円を描きながら自らの傍へと移動させる。





「勿論! この中身は────」



「魔術反応ッ!」



「早く出すんだ! 幾らか手に取り投げ捨てろ!」





先程より別枠なる雰囲気を漂わせていた、冷静そのものであるダルミは、自ら発した言葉に連動するが如く勢いにて、警告を行う。



慣れた手付きにて留め紐を解き、手にしたばかりである袋に手を入れる。



さすれば、(ひと)掴み分の魔鉱を陽の光に浴びせる。



半ば、動揺した様子にて掴んだ手を空中上で離す。



彼女から解き放たれた擬似的人体部位は……。

人のように備え付けられた二つの瞳にて。



こちらを臨む巨物目掛け、飛散する。





「全員、目を閉じろ!」





鮮烈なる変化により……。

イラ・へーネルは各員に向け、視界を閉ざすことを指示した。



前方より位置するオリヴァレスティは、その言葉と共に私に覆い被さるようにして……視界を暗黒なるものへと変える。



光が消え、視界が不鮮明なものとなる瞬間。

消えゆく光景の端にて、ファブリカに別枠なる指示が下されたことを知る。



淡い暗闇、突如として変化した視界の様相。



自らの意思で確認することが出来る訳ではなく……。

非支配階層である力関係から、覆すことの出来ない待機を強いられる。



────炸裂音。



鼓膜を冷たく振動させ、金属的音声にも思える程の変化が、聴覚的に伝わる。



未だ泥濘に足を踏み入れ、覚束無い感覚の中で。

遂に確認した衝撃により私は、変換の兆しを悟る。



……案の定。

外界を隔絶させたオリヴァレスティは、頼もしく光を齎し、真実を与えた。





「大丈夫……?」



「=うん。咄嗟(とっさ)で何とも言わずに。うん」



「大丈夫です……って」





私を覗き込むようにして、身の安全を尋ねる彼女を認知するも、依然として起こり得た炸裂音に対する答えを浸透させていなかったが為に、少しばかりの返答の後、即座に下部へと視線を移動させる。





「オリヴァレスティさん……あれはなんですか?」





視線の転換を行う際。

同時的に確認出来た他の面々は、既に下部を覗き込んでいるようである。



比較的不安定な状況に置かれた戦闘であっても、そこから移動しないといったことが、疑問として残されていたが、直ぐに在るべき形態なのだと知る。





「あれはね、魔鉱を成分とした粘液でね、付着すれば固まって、そう簡単には……」



「駄目だ……! 全員、後退し攻撃を行う! 手段は問わない、各自の判断に任せる」





期待を(はら)ませオリヴァレスティの言葉を聞いていたが、それを打ち砕くようにして前方より……次なる司令が下る。



同時的に捉えていた人型要塞に覆い被さるようにして付着する粘膜的物質を目にし、情報と照らし合わせていた最中であったが。



固まるといった予測は……(ことごと)く外れた。



依然として四肢を異方向へと作動させ、(いびつ)なる四足歩行を敢行(かんこう)する姿を見れば、団長面々の切羽詰まった言葉に納得がいく。





「私達も移動しよう!」



「=うん。掴まってて! うん」





オリヴァレスティの肩に手を置き……。

飛ばされてることがないよう進行の度合いに合わせて力を込める。



そこで私は────。


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