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172.電荷/空転


「ダルミ! オリヴァレスティ! 更に後方────退避せよ!」





イラ・へーネルは右手を上へと高く上げ、その場で静止させる。



見通しの良い環境にて確認出来た彼女の合図。



それは、見間違うことなく、後方へと伝達された。





「移動の合図なのですよ」



「そうみたいね、さっ! 手遅れになる前にね!」



「=うん。舞い戻り推進、加速……。うん」





団長は後方に背を向け、首から振り返るようにして的確な指示をする。



魔術射出具前方に移動し……。

両手をつけ全身に力を込めるといった作業に移る間。



横目で目にしたターマイト戦略騎士団の進行度合いを確認すれば。

完全にも思われる「移動」を、余儀なくされたことは(おの)ずと分かる。



分岐点となる結果。

()()くして訪れたとなれば、さして驚かないのだと知る。





「ダルミさん、オリヴァレスティさん……見てください」



「やりましたですね。成功なのですよ」



「お?」



「=うん。食いついてる食いついてる! うん」





先程こそ地鳴りを右方向に感じていたが、今はその揺れを前方に感じていることから、場面の変化をより鮮明に実感することが出来る。



当初より期待していた迫り来る巨体の進路変更。



踏み荒らされることのないように窪地から離れた結果、求めたままに、こちら側の目標が訪れることになるが……それはつまり、彼等の目標が「私達そのもの」であることが、清らかに明確となったのだ。





「大丈夫ですかね、こっちに……一心不乱に向かって来てますけど……」



「心配しなさんな! 準備は出来てるんだからさ! 後は私達は待つだけ、兄ちゃんのおかげでね!」



「=うん。準備万端、衝撃に備える。うん」



「その通り────……ええ、その通りなのですよ」





若干(とどこお)ったダルミの言葉より異変を察知し……。

更なる前方……イラ・へーネルの姿を、鮮明に収めた。



限られた凝縮的視界の中で。

私は、依然として手を挙げている団長の姿を確認する。



後方への移動を合図したまま、それこそ途切れることなく上げ続けた腕。

その先に存在する指の先に小さな光球を捉える。



眩く跳ねるようにして(ひかり)(はじ)け。

瞬間的な炸裂音が辺りに響くなり、私が属する後部集団に、動きが起きる。





「射出の合図なのですよ!」





振り返るようにして、こちらへと顔を合わせる同乗のオリヴァレスティは、そう実感するや否や変化著しい前方へと視線を向ける。



それに釣られるようにして視界を固定させれば……先程より傍へと固まっていたダルミが、私を含む二人の肩に優しく手を置く。



柔らかなる印象を受けつつも、イラ・へーネルの合図を受け取った。





「それでは、離れてください」



「────行くよ! 兄ちゃん!」





私は前方後方両者に挟まれるかのようにして指示された事柄に従い、オリヴァレスティの杖に乗りながらその場を後にする。



魔術射出具の背後へと回り込んだダルミを確認し、広角なる場面を把握すれば、引き起こされる取手(レバー)を喜劇的に捉えることが出来た。



外付けの部品、そのに集約される魔力。

満載される力によって、依然として保たれていた位置関係。



(いず)れとして破綻に向かうのであると悟る。





「も、もうあんな距離に」



「ほら見て!」





団長の合図。

高くあげた腕を勢いよく振り下ろし、それに伴ってダルミが充填された魔術射出具を起動させ、辺りに細かな振動が発生する。



膨れ上がるかのようにして光球が射出口辺りに形成される中、先端から後端にかけて射出具は全体として帯電をしているような細々しい無数の閃光が幾線現れていることから、激しい電熱的印象を受ける。



熱源と化した射出具にて今尚(いまなお)ダルミは取手を握り、射出の管制をしているが、何時(いつ)しか強風も現れ、嵐のような環境の最深部にいるせいか……。



その姿は早々と対比し、朧気(おぼろげ)となる。



客観的に見て危険である環境。

残留するダルミは依然として、何かを待っている。



よく目を凝らし捉えれば、その視線の先には……ファブリカがいた。



────突風。



突如より、辺りに風と(おぼ)しき不認の存在が吹き荒れる。



開始の合図を示すイラ・へーネルの傍にて、先程まで待機していたファブリカが、進路を変え直前まで迫ったターマイト戦略騎士団に向けて魔術を放った。



大きく揺らぐようにして噴煙立ち昇らせて進行していた巨体はその場で静止し、あろう事か鉄車輪を駆動させる一部分が大破し、安定性が崩れる。



進行の速度が大幅に置いたところで、後方に意識が向く。





「やっちゃえダルミ!」



「=うん。今だ! うん」





盛大な後方からの後押しと、指示された明確なる合図。



的確なる時期として現れた、静止する目標物を確認するダルミ。



一同一体となった環境にて、取手を大きく引き込んだ。



【閃光】



(まばゆ)いばかりの細かな光源は、爆烈なる勢いにて一時は収縮、吸収される。



外部的に現れた部品に集約される魔力が崩壊し、最早(もはや)(そう)としての役割を果たさぬ存在は、熱烈なる光線として顕現(けんげん)する。



後に前方に集約され、一個体となった光球は、水蒸気と思しき煙幕を生み出し、空気を振動させながらターマイト戦略騎士団……移動要塞に直撃した。



瞬時的な接触、時経たずして訪れた(エネルギー)の炸裂

大幅なる振動と過剰なる熱を(はら)んだまま……。



質量として存在する目標の上面を、円柱状の「射撃痕」として融解させた。



得られた結果。

それは、トーピード魔導騎士団が死守するべき環境の保持に直結するものであるが、私は地鳴りが止み、少しばかり落ち着いた心持ちの中で……最も近く、最も煙を発生させている存在に意識がやっと向いたのだ。





「ダルミ……っ!?」





煙幕立ち込める環境。

その中心、第二の発生源である魔術射出具の辺りでより色濃くなる噴煙を見れば、途切れ途切れにして確認出来るダルミの姿が映し出された。



オリヴァレスティは、その未だ残されたままである姿を目にするや否や、場面を共有した私の手を強く握り、そのまま煙の中心点へと加速した────。





・・・・・・


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