171.経路/伝送
「射出素材については……」
今にも進行を始め、渦中へと飛び込んでしまいそうであるイラ・へーネルに向けて、ダルミは指示として託された役割について尋ねる。
私としても疑問として挙がった問い掛けに対して、答えを身を乗り出して求める程であり、例の射出具から放たれたどんな魔術よりも光濃く、鮮明かつ美麗な光線を無尽蔵……無制約にて撃ち出せるとは考えていない。
トーピード魔導騎士団の会話からも分かるように、今回目にした射出は、強大かつ前例のないものであると、様々な受入器官からも重々承知である。
理解として及んでいる攻撃手段を再び活性状態へと移行させ、迫り来る巨体に対する有効手段として使用する算段なのであれば……。
結果として私の存在は、騎士団所属の各位にとって如何様にも価値が揺らぐ……正しく清浄な拾得物になるのではないかと思うのだ。
「ああ。限度については理解している。つまりは極めて合理的かつ安全的な運用が可能になる最前の策とは……オネスティに協力してもらうことなのだ。……いいかな?」
「はい……」
既に傍へと付いたファブリカと共に視線を送るイラ・へーネル。
杖に手を掛けた状態にて告げられた言葉。
同意を求める文言に対して、了承を反応として示す。
自らの立場について考えれば、拒否する希望さえ与えられておらず、理由を求めるよりも先に決断を迫られ、結果があろう事か先々として訪れる。
結論として確定している事象に対して憂うが、私を素材として欲するのならば、有効な活用物として認識……後には、あくまで磐石な、共通なるものとして全員が捉える「結果」も容易に予想出来る。
訪れた無法者による悪影響を受けた国家や報告情報、予想さえしていなかった現状を理解するのは、このような受容的な認識が必要なのであると客観的に見れば、そこまで時の経っていない環境にて実感する。
かつてより求めた、ネメシスもとい彩雲彩花の軌跡。
魔鉱を共通として得られた帝国の情報を思えば……。
これより先……彼女等と共に窪地を守ることが出来れば、得られる結果も、それに見合った「良いもの」であるとあくまで希望的に考える。
「決まりだ。オリヴァレスティ、ダルミ。合図はこちらで……後は任せた」
「了解なのですよ」
「うん! 了解!」
「=うん。射出具の後方移動と射出準備に取り掛かりましょう。うん」
後列三者の意見を確認した後、前方の二人は一旦は静止とも思しき速度にて滞留したこの場から離脱し、更なる前部分……迫り来る巨体に向けて進行した。
残されたダルミ、そしてオリヴァレスティはその進行に倣い、特別な合図などなく踵を返すように空中上にて転換する。
既に移動する小集団とは異なる位置に向けて、移動を始めた。
射出具を杖を推進させる者が同時に押し、配置を後方へと向かわせる最中。
先程までの会話においても、依然として両手は接着されたままであった。
幾分か前の加速より比較的緩やかな進行
その果てに、自らの役割と今後への不安を感じる。
そして、皆共通の観点……。
進路の変更が成功するか否かにおいても、良い結果を望むばかりである。
「よし! じゃあここで展開しよう!」
「=うん。合図があるまで待機だね。うん」
「そうなのですよ。オネスティさん、準備はいいですか?」
私は告げられている質問に対して、自らの存在価値を定め、実感として今後の方針を得られのではないかと内心前向き気持ちにて心を正していた。
その間、気持ちについてを考える自らがどのように滞留しているのかを思い出し、ある種別枠の思考を複雑なものとして捉える。
辿り着き静止した空中上での位置は……。
オリヴァレスティの杖にて同乗し続けている限り不安定なものである。
自らの意思で滞留地点を決めることが出来ないとなると。
上空中における事の一切を信心的に考えねばならない。
私は……答えねばならないのだ。
準備を整えることは出来ていないのかも知れないが……。
「問題ありません。……指示をお願いします」
イラ・へーネル、ファブリカは前方にて観測、射出の指示を行うとし、私達はその位置を漏れなく確認した上で展開の準備へと移行する。
告げられた質問に返答し、それを受け取ったダルミ、オリヴァレスティは、機器への接続からなる結論を私に実践として告げる。
私は、この魔術射出具に初めて対面した時と全くもって変わりない工程にて再現し、先程と同様に……本体に触れる。
異なる点といえば、その作業に仲間は居らず私のみであるであるとの事だが、注意深く観察されているといった点においては好待遇といえるだろう。
そして、複雑な思考を重ねる時間が十分に与えられるでもなく……私は自発的行いとしての接触から、経験的に後に起こるであろう「反応」を作業の終了と共に、極めて清浄な心より、待っていた。
「こちら側からの調整は完了なのですよ。あとは……」
「待つだけだね!」
「=うん。暫しお待ちを。うん」
私はオリヴァレスティに、励まされる様な形にて肩を触れられ若干体を揺らすが、彼女はその反応に気づく素振りなど見せずに背面への移動を促した。
杖にて同乗すればこそ、先程より距離を置いていたダルミを確認する。
私は、比較的緩やかな進行速度にて、合流を果たす。
そして、そのまま射出具の背面へと回り込み、静止する。
「き、来た……!」
「=うん。上手く食い付いてくれれば……。うん」
射出具から顔を出し、前方の様子を極めて安静なる心持ちにて確認する。
地鳴りのような振動に、逸らすことの出来ない土煙。
後方に指示された準備の最中であっても、刻一刻と迫る運命の時に、私は対処の策として冷静なる心持ちを鍛える他なかった。