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170.下層/顛末


速度を増し、土煙を上げるターマイト戦略騎士団。



その本体は一直線に、こちら目掛けて接近する。



以前より進行していた速度とは、一切比べものにならない程に加速した移動物の「原因」は、(まご)うことなく目の前の彼女であろう。





「それじゃ、またね!」



「待てファブリカ────」



「はあぁっ!!」





目を物理的に輝かせる彼女は盛大に告げた後。

吐き続けてきた煙を、自身を包み込む程の量まで増加させ、辺りを曇らせる。



訪れた目標に対する変化にファブリカは……。

イラ・へーネルの制止を振り切り、空間に斬撃を放った。



数えることの出来ない無数の振動。

それは、空にて生み出された魔術的な風であると、以前の記憶より悟った。



しかし、私の短い期間における前例にはない程の速度、その数……そもそも彼女の様子から満ち溢れた力の感覚が見て取れるのは当然のことなのだろう。





(のが)した……」





ファブリカの断絶は煙さえ細かく()ったものの……。

問題の球体を捉えることは、なかった。



斬撃により視界が良好となれば、跡形もなく消えたフェルニオール、そして巨体が目前へと迫っている事実が明らかとなる。





「ファブリカ、すぐ戻れ!」



「はいー……」



「……分かっていると思うがこの場での戦闘は好ましくない。皆、左方に移動し迎え撃つ。これは……目標がこちら側であることに(かか)かっているが」





イラ・へーネルは、消えたフェルニオールを追うべく身を乗り出したファブリカを引き入れ、定められた空中上の列にて指示を下す。



不穏なる空気の中、入り乱れる感情を整理するより……。

先に来る変化に対する「手立て」を取らねばならないとの意思を()み取った。



私は、ひとまず団長の判断に対して、個人的に解釈することにした。





「そうなのですよ。シュトルムさんの行動原理も、先程展開されていた魔術士群も説明がつきません。度々(たびたび)のようで申し訳ないのですが、ましてや彼が敵なのか……」



「それは確かに……考え続けていることだ。未だ答えは出ていないが、この場を踏み荒らそうものなら……」





対峙する二つの騎士団。

偶然か否か、先程より協力的問題解決に当たっていたはずであるが……。



千載一遇の機会を得るべく帝国の防術塔を破壊し、進行を続けたターマイト騎士団に何かあったのかと考えるより前に、同場面に展開し、この結果を(もたら)すに至った「共通点」を大いに、深く思い浮かべた。



フェルニオールが画策したのは恐らく二つ騎士団の衝突。

(すなわ)ち共通点とは、どちらとも同じ王国に所属していることになるが……。



王国が母体だとするならば何故。

その団長であるイラ・へーネルは報告、もしくは指示を(あお)がないのだろうか。



疑問や疑惑が生まれるものの、不確定要素多数のままであるが故に、それはこの場面での最善であるとすると……何ら問題ではない。



言葉の速度を減速させ……。

停滞の予感を感じ取らせるイラ・へーネルを不安に思うのではなく。



私は、来るべき事実と眼前の光景に集中せねばならないと密かに思い直した。





「……ああ、やむを得ん。今はとにかく、全員私に続け!」





何かを振り払うようにして背後へと手を向かわせたイラ・へーネルは、トーピード魔道騎士団に属する面々に進行の合図を行う。



人一倍加速し移動蹟(いどうせき)を作り出した彼女は、誰に何を問うでもなく、魔術射出具を運搬し遥か左方、目指すべき窪地の外れにて進行している。





「続くよ!」



「=うん。掴まってね……! うん」





オリヴァレスティの杖にて同乗する私は、短距離的前方にて聞こえた声を認識すると同時に、見えない圧力を受ける。



これはこの場から離脱、団長を追って進路確立を目指した故の加速であり、それに対抗する術として決死かつ咄嗟(とっさ)の行動をとった。



私は前方からの声を聞くや否や。

彼女の肩を掴むことになったが、如何(いかん)せん抵抗がなかった。



その理由を全身の筋繊維を強固にし、あらゆる思考を重ねつつも前を見()える状態にて考えれば、突破なる結果のせいであるとの結論を導き出す。



後でどのような仕打ちを受けようとも粛々(しゅくしゅく)とせねばならないと、限度のない進行最中、肩に助けられながら……思った。





・・・・・・





「……すみません、その」



「ん……? どうしたの……って、まだ掴まってて!」





自らの考え通り、進行を終え制止へと至った状態を確認した上で。

私は、粛々と彼女の肩から、手を退()けたのだ。



しかし、オリヴァレスティは予想とは裏腹に。

一度は杖の下まで降りかけていた私の手を取り、自らの肩へと再び戻した。





「=うん。いつどこで、また移動するか分からないしね。うん」





不必要か否か。

そのような考えに至る前に起きた事実に思考を重ね、ありとあらゆる結論を模索(もさく)し巡らせるも、外界(がいかい)からの情報を得るだけの私にとっては、それこそ非効率的であると、朧げながらも気づいてしまう。



彼女の言葉。

元あるべき位置とはこの場所であると錯覚してしまいそうな……極めて自然的な修復に感銘するも、後から鮮明に捉えることになった「次回進行時の備え」との意見は驚く程真っ当なものであったのだ。





「よし、二手に別れて迎え撃つ。……ファブリカと私は前方にて観測、指示。オリヴァレスティ、ダルミ、オネスティは、後方にて十分な距離を取り、射出具を展開せよ────」


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