016.自壊/刺突
「……待ってくださいーへーネル団長ー!」
私とトーピード魔導騎士団を阻んでいた溶岩。
自壊した壁の重みによって踏み潰される。
壁の倒壊後、一時的に現れた足の踏み場を越える。そして、即座にイラ・へーネルに先導され、外に出る。光をより多量に取り込むや否や。想像していた光景とは異なるものが、そこにはあった。
「……おいおいおいおい。これは予想以上だな。何だこれは」
「これは…… 恐らくー。熱伝導向上系の魔術をー会得した術者がー周辺の石を溶かしてー、ここにー流し込んだのだろうとー私は推測しますー!」
「やはりな……。……ダルミ。これは襲撃であると私は見るが」
「はい。現在確認中ですよ。壁の倒壊によって一時的な障害が発生しましたが……現時点で反応、ありませんよ」
「倒壊をみて逃げたか。それも生き埋めにしようとは性格の悪い……目的は偵察、あわよくば殺害、だろうか……」
「団長。────探知、捕捉しましたよ。対象空中飛行により……移動速度域から推測して撤退中と思われますよ。反応から縦列と推定」
「よし、ならば側面から叩くか」
「ちょっ、と嘘でしょー。待ってくださいよー!」
「どうしたファブリカ」
「逃げてる人とやるの嫌ですー。ちゃんと正面からー戦いたいですよー!」
「まあそう言うな。それに逃げているなら捕獲した後、会話もしやすいだろう。ちゃんと分けてやるから心配するなファブリカ」
「はいー……」
「……よし、ダルミ。基地に戻って防備を固めろ。出かけてくる」
「はいへーネル団長。くれぐれもお気をつけてですよ」
「ああ、分かっているとも。あとは任せたぞ」
「了解ですよ」
「ファブリカ。私と来い」
「了解ですー!」
「オネスティ、君は武器を持っていない。それだと自身の身を守れず、格好もつかん。……その剣を使え、難しくはない」
私はイラ・へーネルから剣を渡された。
しかし、彼女が剣だというそれに納得が出来なかった。
何せそれは。
元々彼女の腰に付いていた蛍光色の管、その内の一つだったからだ。
……剣には見えない、それに尽きる。
「これは……?」
「ああ、初めて見るか。これはヴァシュロン。別名『伸縮自在の刺突剣』といって、剣先が目標まで伸びていくものなんだ。だからこれを使えば、剣を振るったことがなくとも、相手を狙って突き刺すだけでいいんだから……これはもう。オネスティの為の武器みたいなものだな。……はは」
ヴァシュロン。見た限りではただの細長い筒だ。だが、その正体は伸縮自在の刺突剣だという。よく見れば、二箇所に別れている素材から、刀身の収められた鞘と持ち手の柄とが判断出来た。全体の下地となっている色は細かな漣痕模様の黒濃淡であり、鞘には触れば取り外しが出来そうな金色の鋲が打ち込まれている。
鞘を抜くことによって現れた刀身。金属的な銀色をしておらず、光り輝くような光沢は一切見られない。色は外見と同じように黒であり、細い刃の先には小さな返しのようなものがついている。鋭利部を六角の形態とし、寸分の狂いも見受けられない漆黒の刃。その全周を囲むように六本の血抜きが彫られていた。
「いいんですか? そんな……、へーネルさんが使ったほうが……」
「いやいや何を言う。私には剣は振るえんよ。私はこいつがあれば、十分だ」
そう言ってイラ・へーネルは、杖をそっと撫でる。
「私は使役や影魔術を専門としているのだから、使わないともったいないだろう?」
「使役……」
「ああ、私のものは生き物に限った使役。まあ特能ではなく影魔術を応用したものだ。あんな馬鹿げた能力と一緒にしないでくれよ。その武器は一応の備えとしてのものだから、遠慮なく使い潰してくれ……それに────」
「へーネル団長ー。もう行きますよー。あとは上でー話しましょうよー!」
(……上?)
「ああ。ファブリカ。待たせてすまない。それもそうだな上で実際にやってもらった方が早い。それじゃあ出るぞ」
「────ちょっ、と。待ってください」
「どこかで聞いたような。どうしたオネスティ、怖いなら……」
「いえ、上って言ってましたけど……もしかして、そのまま飛ぶのですか? その……鳥さんはいらないのですか?」
「当たり前だ。ってそうかオネスティ……」
「え、オネスティー……飛べないー……?」




