168.触腕/合致
「そ、そうですね。迫り来ていた敵勢力をこう……消し去ったのですから、それは何よりです……」
今や塵一つさえ見当たらない空へと変貌し、幾多数多と群衆的に存在していた浮遊物がいざ取り除かれたとなると、後に残るのはそれらを齎した本体であろうと、幾分か大きく見えた要塞に意識が向かう。
また、視界に映る唯一の救いであるはずのトーピード魔導騎士団でさえ、明確な有用性の発見に様々な要素、正に変化を隠せないでいる。
全員が全員、腹の奥底に何かを隠しているかのような表情を向け、真っ先に気づくであろう移動要塞の存在を前にした際の対応の「差」を目の当たりにすれば、異常性や不安感を掻き立てるには十分である。
……未来は明るい、その文言に私は含まれていないように思える。
「────って、皆さん気づいていますか?」
私は、居ても立ってもいられなくなったのか。
背後に迫りつつあり、重複などといった得体の知れない能力の存在。
確認することもなく、迫っている移動物について尋ねることになる。
静止し、単色となった場面の転換もとい状況把握に努めなければならないと、私自身……発言という、ある種思い切りのある決断をした。
「ああ。……見たところ、近づいているな」
「どうしたものですかねー」
「まあ防御柵が突破された時点で……あっ、迎え撃つんだよね?」
「=うん。これは……悩んだ末の結果? うん」
「オネスティさん……。皆気づいているのですよ。それより、ターマイト戦略騎士団のものとは異なる反応が」
予想外の魔術量にて充填された魔術射出具。
そこから放たれた衝撃により敵勢力を壊滅させた。
その結果として得られた瞬時的な快晴。
それこそ私の背後に広がる後の空中焦土のような光景に触れることなく。
ただ私の貯蔵量や潜在能力、特異性について気にかける彼女等。
それらに対して、疑問を覚えていたわけであるが……。
粗方の思考を終えた上での「行い」であったことを回答として知り、空を見上げる気持ちであったが、即時的にダルミの反応とほぼ同じく、異変を捉える。
「あの……この香りは……」
トーピード魔導騎士団の面々は……。
複雑な表情を浮かべ、揃いに揃って浮遊し続けている。
その様子をオリヴァレスティの杖の上にて観察していると。
辺りに降り注ぐ、炙られた紙巻の香りが、鼻腔を擽る。
覆い、包み込まれるかのような香りと、辺りに広がる視覚的光景とを対比させれば、あくまで関連性のあるものであると感じるが……。
それと同時に、極めてその二物が、不恰好のように思えたのだ。
「兄ちゃん、なにか香り……する?」
「=うん。しない様な。うん」
「え」
「そうだねー、香り……」
「……待って欲しいのですよ、それはもしかして────」
『お待たせお待たせ!その節はお世話に? なったね!』
「なっ……お前は……」
取り巻くような音。
訪れた変化にイラ・へーネルは目を見張る。
香り立ち、振動孕む音声を聞き取れば、即座に目に見える異変が発生する。
骸を纏うかのように……。
辺りの浮遊物を吸収合併させ、仰々しい球体を生成した後。
その上面にて現れた声の主は、紛れもなく左腕を失っていた。
「この期に及んで私の前に顔を見せるとは……」
「兄ちゃん、あれだれ?」
「=うん。私、知らない。うん」
そうか、オリヴァレスティは……。
彼女を退けた後にて再会をしたために、実際の姿を見ていないのだ。
イラ・へーネル、ダルミ……普段とは異なるファブリカを横目に、私は彼女達が絶え間無き変化を映していることを確認し、視線を後方へと下げる。
小声にて肩を寄せ、生み出された人物に目をやりながら尋ねる同乗者に、自身としても極めて信じ難い答えを告げる決意をした。
「……帝国魔導騎士団団長、フェルニオール」