167.疾患/籠絡
「射出、始め!」
イラ・へーネル、ダルミが後方へと退避し、こちら側へと合流するや否や……宙に浮く射出具は、眩い閃光を先端にて蓄積させる。
僅かの静止時間などなく。
溜まりに溜まった光球は弾け溢れるようにして、一線を吐き出した。
「……これは、なあ」
「ですよ。ですよね団長」
「……そうだねー、これは見た事ないー」
「私もさっきまでなんの事か分からなかったけど! 兄ちゃん、もしかして……」
「=うん。調査の時に判明した結果は、部分的なものに当て嵌めて解釈していたのだろうか。うん」
彼女らは複雑なる表情のまま。
こちらに面を向かわせ、それぞれに問い掛け含む「投げ掛け」を行う。
一切見当が……などとすると嘘になるが、あくまで仮定の話に留まる。
王国にて行われた、魔術の適正検査なる怪しい儀式を受け……。
夢敗れて結果は、使用不可との見解であった。
然して付随すれば、魔術使用不可の人間に、敢えて射出具に手を触れされる意味などないと考えつくも、比較的早い段階にてそれは否定されている。
射出具側からの吸収によって、私の魔力を取り込むとの返答であったが、それだけを真に思えば……こう、彼女達が驚く必要さえないのである。
それこそ爆散、爆裂するが如く光線は、横一斉に迫り来ていた浮遊物を薙ぎ払い、空中に細かな点描を色彩豊かに作り出していた。
……であるのにも関わらず、そんなことはお構い無しといった様子でこちらを見ているのだから、末恐ろしささえ感じてしまう。
それだけ全面、彼女らの背後に映る……内容物が膨張し破裂したかのような光景よりも、魔力射出具に起因する事象の方が興味を引く事柄なのだと悟る。
「さて、今のところ敵勢力の勢いは削がれたように思える。それが故にオネスティ。先程の話だ」
「……?」
私はイラ・へーネルの口から発せられた言葉を受け取り、敢えて飲み込むのを遅延させた状態にて、無知であることを装う。
何を知り、何を知らないなどといった情報。
彼女達にとっては、今更細かなことであるとの可能性もあるが。
無知の公開、それは保管の後に結晶化されるよりかは品質保持に繋がるとした……今後に対する対策であると、一人定めた故の行動である。
「以前、王国にて魔術適性についてを調べたな」
「……はい」
「異常な蓄積量、これはオネスティ。君の多大なる潜在魔力が原因だ」
イラ・へーネルが魔術適性を切り出し、連想させると……。
私の思考は物事を全体として捉えることを急務とした。
使用不可能であるとの烙印を押した調査の結果。
紛うことなき陰性的反応。
後に現状として得られた有用性、その有無が明らかとなった。
極めて不鮮明ではあるが、私は機器より吸い取られることによって魔術的運用が可能であると知り、一種の安堵を実感していた。
満を持して、告げられた事実。
異常な蓄積量、潜在魔力……全体像を捉えることは出来ないが、吸収の後に発揮したその他射出の結果を見れば、威力の壮大さは伝わってくる。
これを齎した要因が私にあるとするならば、事を荒立てたくないと考えてしまうのは、保身的な浅はかなる立ち振る舞いに移った弊害であろうか。
「……私としては実感がないのですが、そうも言っていられないようですね」
「そうそう! これで分かったよ! 兄ちゃんは人より魔力量が多いんだね!」
「=うん。この威力。うん」
「だけどー、もったいないよねー。こんなに魔力があるならー、使えたらそれはもうー……」
「はは、それはそれで酷だと思うのですよ。……しかし、オネスティさんに対する見方が変化するのは必須……ですよね団長」
「……ああ。これから確かめることは多々あるが、未来は明るいぞ」