166.越境/劫火
その行動の後、即座に明確な反応が起こる。
疾風にも負けず劣らずに思える程の光線が、魔術射出具に触れることを始点として、トーピード魔導騎士団の面々から溢れ出す。
輝き始めた彼女達を眺めれば……。
自らの視界の変化を、より顕著に察知することが出来る。
当初こそ鮮明に捉えていた輪郭は綻び、柔らかく暖かな印象を受ける視界の揺らぎは、内外的なものであることを知る。
私自らも彼女達と同様に光り輝いていたという事実。
そして、自発的に魔力を送り込むことが不可能であるとの情報。
貯蔵するとの見解からは、その実感は湧かないものであると。
あくまで、客観的に感じることになった。
「さて……」
魔術射出具より現れた部品により注入されるのは、つまり私を含んだ全員の魔力……しかしながら、視覚的には判別することは出来るものの、やはり肝心の「流れ」そのものを感じ取ることは、出来ない。
だが、彼女等の姿を見れば、言われず感じずとも。
身体から流れ出し、外付けの容器に溜まりゆく光源を見れば、来るべき変化、望むべき指標を察することが出来た。
正しくそれは、新たなる結果が……その行動の停止によって齎されることにより、全てが深々と清算されるであろうと考える。
「これより射出を行う。各自安全確保の後、後方にて待機だ」
「団長……」
「ダルミ、どうした?」
閃光収まり、狭まっていた視界が元に戻るや否や。
イラ・へーネルが告げた言葉により……。
トーピード魔導騎士団の面々は後方へと退避する。
結果、私を含めて……射出具を置き去りにした。
しかし、待避という命令に対して、初期動作のみを行った結果、離れたといっても目と鼻の先の距離に留まっている現状が形成されている。
指示とは裏腹に、移動の果てに静止を迎えた私達の視界には団長、そしてダルミ両名の存在が鮮明に映り込んでいる。
その光景に対して、ファブリカとオリヴァレスティは浮かび上がってくる付随的な疑問を隠せずにはいられなかったのだろう。
身を乗り出すかのように視界に映る両名を眺める彼女達。
私は、魔術射出具付近にて留まり、観察されている側にも、その姿が大いに当てはまることに……気づいてしまった。
「……この量、相当なものですよ」
「ああ分かっている……」
イラ・へーネルとダルミは揃いに揃って視線を送る。
複雑な表情を向ける両名の存在を……。
私、そして、待避行動を行った面々は、捉えていた。
「オネスティ、聞きたいことがある。だがそれは後回しだ。全員、現在位置より更に後方に待避だ!」
表情を変え、大きく振りかぶって右手で指示する団長に呼応するが如く、ファブリカ、オリヴァレスティは事前説明無く後方へと加速した。
杖の端を掴み、体を固定しながら視界に映る両名を確認する。
イラ・へーネルは射出具上面に乗り込み、跨るようにして前後に取り付けられている「部品」に……深々と手を触れる。
上部に現れた、蓄積槽のような部品から伸びる細線。
ダルミは後方へと回り……手繰り寄せる。
「魔術ー、溜まったどうかの確認は終わってるみたいだねー!」
「にしてもダルミ……それに団長……。心当たりある? 兄ちゃん」
「=うん。実感実感。うん」
「いえ……」
彼女達の言葉により魔術射出具の運用準備は整い、現在留まっている両名が、最終判断を下す「段階」に来ているのだと悟る。
変化への兆しが固定へと近づくことに安堵を覚えるものの、唐突に告げられた疑惑的な投げ掛けや、疑問を共有する周辺浮遊魔術者の存在が気に掛かる。
射出具にて全員の魔力を供給させる為に接触伴う動作を行い、視覚的な情報のみで「達成」を知る私の実感としては、何に対して騒然的な結果が発生しているのか不明瞭であり、不足そのもの……不確定である。
思いもよらぬ情報の相違、非共有性に直面したが故に……。
私は、心当たりや実感はないとの結論に達した。