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165.分散/告解


大地に根付き(あらわ)になった射出具は、辺り一面窪んだ更地(さらち)であるこの場所には大変似つかわしくないほど、悠々自適に存在していた。



細鉄骨(さいてっこつ)を編み、鉄柱(てっちゅう)(いく)らかの梯子(はしご)にも見える巨大な存在は、単鉄槌(たんてっつい)のような左右非対称である「部分」を外部に指向(しこう)させている。



身軽となったファブリカは前方、シュトルム迫る方角。

比重顕著(けんちょ)である部分に張り付き、私とオリヴァレステイは後方に付く。



そこで掛け声と共に力を掛け、それこそ一気に上昇。

均衡を保ったまま、魔術射出具は地から離れ、空中へと()ぎ出していった。





「きたきたー!」



「成功だね!」



「=うん。このまま団長さんの場所まで。うん」





団長の指示により本体より離脱し、空中上を進行。

滞留後に地上に向け魔術を放ち、確認可能なる魔術射出具の元へ接近する。



そこで杖を乗り換え、各自由となった両手にて鉄梯子(てつはしご)に触れ、念力込めるが如く形相(ぎょうそう)にて一声かければ、彼女達は易々(やすやす)と地面から鉄塊(てっかい)を引き()り出した。



指示から実際の運搬までに掛かった時間。

(まさ)しく、紙巻の始まりから終わりまでに収まり……。



その終始において。

自らの力を行使していないという事実に、若干の感嘆(かんたん)を覚えた。





「とうちゃーくー!」



「団長! 戻ってきたよ!」



「=うん。敵勢力は……。うん」





鉄塊(てっかい)と共に離脱地点へと辿り着いたオリヴァレスティは、ファブリカそしてイラ・へーネルを交互に見ながら尋ねた。



視線を向けられたファブリカ。



運搬物と共にあることを忘れてしまいそうな程に清々しくもあるその姿は、私やオリヴァレスティの視界においては、後頭部のみの存在であった。





(おく)するなオリヴァレスティ。敵勢力はこの短時間の間に増大、そして実感としては湧かないと思うが、距離さえも予想を遥かに上回る速度にて縮まっている。……見えているな、ファブリカ」



「うーん。言うか言わないかー、態度に出すか出さないかすら迷うほどですねー! 見えてますよー! もう鮮明にー!」





確かによく目を()らしてみれば……。



その各点の大きさが拡大し、そして過密に感じる。



徐々に声量が増大していくファブリカは、全ての言葉を発し終わった辺りで自らの視界を集団の元へと戻し、何事も無かったかのように振舞った。





「そうなのですよ。間違いなく接近は確認済みなのですよ。ですが、我々の元には既に対抗手段が待機していますからね」



「ああ、ダルミ。座標指定、任されてくれるか?」



「勿論なのですよ」



「よし。ファブリカ、オリヴァレスティ、オネスティ。運搬ご苦労。到着早々であるが、射出具に対する充填準備に取り掛かってくれるか?」





団長とダルミ。

その他付随する会話にて、迫り来る敵勢力についての報告が行われた。



結果としてファブリカ、そしてオリヴァレスティが運んできた魔術射出具をもってして、次なる手立てが現実味を帯び始めた。





「勿論ですよー!」



「私も了解だよ!」



「=うん。久しぶりの分かりやすい共同作業。うん」


「私は何をすれば……」



「全員にこれから、運んで来てもらった射出具に自らの魔術を流し込んで欲しい。オネスティ。君にも協力してもらうよ」



「確か、私は魔術行使が不可能であると記憶していますが……」



「ああ。それは正しい理解だ。しかしな、それは自発的に行使が不可能なのであり、あくまで魔術を搾取されることは可能なのだよ」



「……さ、搾取ですか?」





私は、イラ・へーネルに重ねるようにして尋ねた。



空中にて滞留する彼女達は、薄めの笑みを浮かべた。



迫り来る敵勢力を前にして……それこそ開けた黒色と同時にその光景を見れば、幾らか煙たさを覚えないでもない。





「我々は自発的に魔力を送り込む、オネスティは吸い取られる。それだけだ」



「まあまあー! 後は触れれば何とかなるよー!」



「そうだね! 私達も素早い行動が問われるね!」



「=うん。考えるよりも……。うん」





(なか)ば答えを取り込めていない様子を悟られたか、オリヴァレスティは魔術射出具の元へと更に杖を移動させ、待機を指示する。



既に手を離れ、自立的に浮遊している存在。



それを間近に感じた後、私の手の平に示された場所といえば、彼女が勢い良く稼働させた開閉式の小空間であった。





「ここを開けて触れれば、体にある魔力が吸収されるよ! ……ほら!」





オリヴァレスティは、まず自らの手を(かざ)し……。



まるで教鞭(きょうべん)()るように実演してみせた。



それに(なら)ってイラ・へーネル、ダルミ。

そしてファブリカが次々と射出具に集まり、手を触れる。



────閃光。



順序良く、人が寄る(そば)にて各々(おのおの)光出した射出具は……。



視覚的な部分からの「魔力の注入」といった情報を露わにした。



(しばら)くして工業的駆動音が鳴り響く。



そしてそう長くも経たないうちに、鉄柱(てっちゅう)先端には今までとは異なる物質が、深々と……生成され、清らかたる姿を現した。





「でたね!」



「=うん。わくわく。うん」





姿を現し、射出具に取り付けられていたのは……。



棺のような……筒のようなもの。



密閉の度合を視覚的に確認出来る程に、堅牢(けんろう)である。



その印象を増幅させる光沢は、正しく孕むように、存在していた。





「皆の魔力を注ぎ込んでー、ここに集積させるんだー!」



「集まればそれは、協力な力として、統合運用が出来るのですよ」





話を聞いていけば、(おの)ずと思い出す。



船から突き出した当部分、その場に載せられた航空機。

それが勢いよく射出される様子を、記憶として知っている。



だが、今回搭載されたのは工業物ではなく……。



つまりは、魔力という力の根本そのものである。



直接それを流し込むというのだから、原理原則に関して理解が追いつかない。





「その通りだ。魔術を集約的に運用し、現状に対する対処の策とする。……全員、いいな」





イラ・へーネルは見渡し尋ねた後。



どこからともなく引っ張り出してきた細い部品に触れ……。



思い切り良く鉄塊(てっかい)本体に叩きつけた。


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