164.晩餐/変動
「射出具はねー隠されているんだよー!」
「隠されている……備え、ということですか」
「そうそう! こういう時の為の切り札なんだ!」
「=うん。それを実際に使うとは思ってもいなかったですが。うん」
私とファブリカが、杖上にて同乗している様を見て……。
オリヴァレスティは、絶えず、何か言いたげな様子である。
だが、場合が場合であるために。
その赤色ままの動揺は、一旦押し込ませたようである。
彼女の反応から一端を悟る間。
正しく時は進み、変化は訪れる。
イラ・ヘーネルの言葉により分かたれた別働隊は、退避を終え、待機していた空中から「地上」へと目標を定めた。
射出具を目指して飛行するファブリカ、そしてオリヴァレスティとの会話が幾らか続くが、私はその間も依然として、一本杖に同乗している。
ファブリカの背中越しから確認出来る、下部の光景を見れば、どこに魔術射出具が隠されているのかは皆目見当もつかない。
だが、突如として静止し、眼下目掛けてオリヴァレスティが衝撃孕む閃光を発生させたことを知れば、その存在を確認することは出来るであろう。
「ここだねー!」
「=うん。薄らと、急がないと。うん」
「オリヴァレスティーありがとー! よし、対処される前に運んじゃおっかー!」
四本杖を平面とし、その場にて鎮座する少女が放った魔術は、窪地側面にて爆散し、辺り一面を粉塵立ち上る姿へと変貌させた。
私は訪れた変化に目を細め、取り囲む砂を払い除ける。
すると、幾らか緩和された視界の中央に一箇所。
煙の晴れゆく速度が、他より著しく早い部分を発見した。
「……あそこですね」
煙の晴れた先。
私は、円形の切れ目に人工物を見た。
鉄骨のような骨抜き鉄板、それらが鉄柱のように入り組み……。
中核の一本に絡まることによって強度を保っている。
そう思える程に。
親しみのある存在を目にし、記憶を辿らせる。
実際に目にし、目標として示されたこの存在を思えば、イラ・へーネルが示した魔術射出具については……王国の不整合な外観確認時、既に捉えていた。
私のその時の感想としては、正しく射出機に見えるほどであった。
城壁が高く聳え立つ王国の外観に取り付けられたその部品が、この窪地の辺りに隠されていたのであれば、その使用方法は明らかになるだろうと考えた。
「その通り! ファブリカ!行こっか!」
「=うん。たのしみ。うん」
「了解だよー! それじゃあオネスティーくん! 掴まっててねー!」
加速……一瞬たりとも滞留を実感として覚えていたのが、間違いであったと思われるほどの変化に、鮮烈なる驚きを隠せない。
ファブリカが丁寧に警告をすると同時に。
オリヴァレスティ共々、爆煙晴れた空間へと飛び込んでいった。
……そして、流れゆく視界の端で私は、単なる鉄骨の存在ではなく、直接的にその両端の塊を確認することになった。
前方先端の鉄球のような部分と、地上。
つまりは窪地の縁にて接地している部分とが存在し、彼女達は迷わず浮遊する状態にて後方部分を目指したのだ。
・・・・・・
「……これが」
「魔術射出具だよー! 上から見えたと思うけどねー!」
「うんうん! ここまで迫ってやっと運び出すことが出来るからね!」
「=うん。この両端に配置。一気に団長の元へと運ぶ。うん」
俯瞰状態から一転し、存在へと間近に迫ったファブリカ。
オリヴァレスティの両名は、私を目にしながら指し示す。
射出具を間近、鮮明に確認出来たかと思えば、即座に移動の指示が下る。
ファブリカの杖に同乗していた私は、再び複雑そうな表情を見せ始めたオリヴァレスティの杖上に移動することになった。
杖の乗り換え、それは作業を行うため……。
それこそ、彼女達の「両手の自由」を求めてであろうと。
言われるまでもなく、感じたのだ。