160.適宜/佩用
「調査、というのはやはり」
「ああ正しく。────当初こそ研究され、方針として固められた突発的出現なる土地の調査は難航し、そこに臨もうものなら、運動的制約により向かうことすら不可能……となれば、求るのも致し方ないだろう」
つまり……上方、そして下方の者共の意図は知らずとも、いずれお互いがお互いのもとへと至るのは必須である。
彼女達の目的がそれらを含むものである以上。
私は、両者を同時に見据えた状態にて判断を迫られる時が来ると考える。
「……」
私は、イラ・へーネルの言葉を聞いた後。
次なる言葉を口にすることが、半ば無意識的に憚られた。
寧ろ、再度口を開こうとしているのに気づいた以前に。
これより先の探究心が、この身に災厄を齎し、知らねば良かったなどといった無責任な態度を露にしてしまう可能性が認められたので、口を噤んだのだ。
「その試行錯誤の結果、魔素による固形物……魔鉱であれば、無制限に積み上げ、空へと上がることが可能であると言う法則が発見されたのだ」
「だね! 石とか、その他の固形物を積み立てて、空へ上がったら、足場はすぐに腐食し、登ることは叶わないからね!」
「=うん。今目の前にしているこの場所。私達の本来の目的は魔素を取り出し、魔鉱を抽出して土台とすること。うん」
「ああ。台座として生成、空へと浮遊する地点への到達が目的であり、浮遊に際して阻害が発生し浮遊が不可能……まあ、魔素阻害にて浮力確保難しいということだが」
「オネスティーくん! つまりねー、並の石や素材を積んで空へ行こうとしても溶けてしまうからー、空の都市へは近づけないー。帰還者の訪れを教えてもらう代わりに保護を依頼され、団長が引き受けたってことだねー!」
「そう心配するな。我々は正式な取引の上で、君と接している。石積みの成果が得られるまでは、変化はないと思っていい」
私の目を見てそれこそ覗き込むように、深く屈みながら告げる彼女の表情は、どこまでも光り差す陽光のようであったが、同時に辺り一面の薄水膜を凍らせてしまうほどの薄気味悪さを……孕んでいた。
しかし、それすらも彼女の思惑通りなのではないかとの思考から離れることが出来ず、これまた無言を貫き「返事」とすることしか出来なかった。
「そろそろ、何故目標を目前に控え、行動へ移らないのかと疑問に思い始めた頃だろう。それはな、この一連の流れを正しく落ち着かせるための準備期間とでも言おうか……といっても、その期間中に捉えたものがこう迫っているとなると、お預けだな」
「その変化を捉えるための時間。オネスティーくん。だからそんなに心配しなくてもー、ずれ込みそうだねー!」
「……ダルミ?」
斜め右前方を臨み、屈めていた足を美しく戻した彼女。
思えば、先程まで声の聞こえなかった「一人」に尋ねる。
表情を出来るだけ柔らかくさせながら、その視線の移動に追従すると……。
耳を塞ぎながらこちらを向き、大層な笑みを浮かべるダルミの姿が映った。
「……そうなのですよ。皆さん。お気づきのようですがその通りなのですよ。動かないでください。……彼等はまだ気づいていないので」
「どうだ? 数は」
「それは……複数、特に大きいのが後方……ですがへーネル団長。不可解なのですよ。この波長を私は……」