159.弑逆/随伴
イラ・へーネルの言葉。
それを始め彼女達の会話を聞けば、トーピード魔導騎士団と上空の者は、自ずと体面する可能性があると判明する。
石を積み並べ、空へと向かう理由について。
聞いてはいるが、その真偽こそ定かではない。
だが、少なくとも上方側がこちらを認知しているとなると。
安静なる考えとして流すことは、出来ない。
行動に制限を齎す原因となった不悠乃。
彼女から告げられた言葉を思い返せば……。
騎士団の行動に付き従うことが役割であるとの見解であったが故に。
その支障となる働きは、避けねばならない。
ただ大きな流れに身を任せる。
そのような腑抜けた行動に思えるかもしれないが、上も下も関係なくどちらからも押し潰されないようにするので必死であると静かに示すことのみが……私にとって許された、「唯一」の救いなのであろう。
「……故に魔鉱を積み上げ、土地を形成し、王国の領土とすると。そうですね。それは急務であることに納得出来ます」
「そうなんだよー! 急ぎー、そして重要だからねー!」
「そうそう! なんといっても地面とは違うからね! 勝手が違うと作業速度も変化してくる……」
「=うん。空中浮遊には制限が、それも遥か上空となればほぼ不可能。うん」
「二人の通りだ。というのもオネスティ。空域主権を主張するには、制約のない滞留が必要であり、魔術による永続的浮遊が不可能であるならば、足場を作り、空に浮かぶ土地を作り出せばよろしいとの見解だそうだ」
「有無を言わせない絶対的な支配。認めざるを得ない状況を作り出した上での実効的領土という訳なのですよ」
「にしても。採掘場を抑えているから、そうそう他国が空へ滞留出来るなんてことはないと思うけど!」
「=うん。難しいと考える。うん」
「ある一点を除いてー、かなー!」
「ああ。空に既に浮かぶ未知なる土地、だな」
未知なる土地。
彼女の口からそのような言葉が出るとなると本格的に構えなければならない。
何せ。
イラ・へーネルは私の存在についてを把握しており、空に浮遊する大地、その支配者との関係性を複眼的に捉えているはずだ。
何を考えているか不明である彩花が彼女に示した取引とやらが何を齎すものなのかは、これまた不明瞭で、何をするにも影が付きまとうとなれば動きに制約が二重、三重にも掛かることになる。
トーピード魔導騎士団、彩花、不悠乃のそれぞれが私をどのように捉え、どのような有用性を元に行動をしているのか……。
これまた真実として得られていないが。
地上から天空の大地へと赴こうとしているというのならば、付き従うまでだ。
上からも下からも。
現状維持が最善であるとの印象を受ける以上、協力する他はない。
それ以外に私が未知なる世界で生きていく術はないのだから。
「……大穴といい、溢れんばかりの魔鉱、齎した益は大きいものの、混乱を巻き起こしたのも事実なのですよ」
「まあ、私達にとってはどちらに転んでもだけどねー」
「そうだね! 急務であることには変わりないね!」
「=うん。忙しいことが役割として最善であるとの考え。うん」
「ああ。正に急務。だというのに邪魔が入った。やはり素材についてはオリヴァレスティに頼んで正解だったな。調査へと赴けるのだから」
調査。
彼女から漏れた言葉。
若干の加虐心を覚えたのは、気のせいであると私は考える。
聴覚としてそれを聞き、この目で何も見ていなければ、否定するのに時間は掛からなかったのであろうと……後から気づいた。