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158.啓蒙/蹄鉄


「……この場こそ我々の活動の地、ネメシスが産み落とした魔鉱生成の地である」





装いを伸ばし、背を正すような間を置いて告げられた言葉。

イラ・ヘーネルは明確に、歯切れの良い状態のまま、この場を示した。



彼女の言葉を吸収した(のち)

既に浮かび上がってきていた迎合(げいごう)少女については、深層にて待機を行って貰い、自らの皮膚を硬く強く、形質変化させた後に対面を求めるとしたのだ。



生み出された現状に作用した光景が浮かぶ……。

という極めて数奇なる体験を真新しく何度も経験するとは。



信じ難くもその結果。

恩恵を得られると考えるならば、拒絶するものではないだろう。





「ここが……」





目を拡張させ、振り返るようにして目にした光景に対し、(まさ)しく驚きを隠せないでいる一人の男は、そう背後の人々に思わせるのに必死であった。



悠々自適にて天を臨み、絶えず大いなる受け皿として存在する異様なる大穴。

その縁にて立つ私は、以前より経験した討伐を懐古(かいこ)する。





「ここがー、ア号姉妹ちゃん達にー、連れて来てもらった場所ー! これからすることはー、全てここで行うんだー」



「目的は、あの中心点から採掘される魔石を精製して、魔鉱として改変。そこで初めて土台に立てるの!」



「=うん。大量に、慎重に。うん」



「土台に立てるです……か。なかなか面白いことを言うのですよ。正しく。始まりとして魔鉱を生み出し、それを土台として運搬することが必要なのですよ」



「その通り。精製、運搬。それは我々の目的に繋がる。その目的とは即ち、天と地を結ぶ架け橋を魔鉱によって生み出すことなのだ」





彼女達によって告げられた言葉は、私を惑わす黄土(おうど)砂塵(さじん)である。



奥深くに忍び込んだ影響か……。

光景と対比させながら実感する目的に、恐れを()す。



実際に目にした、ア号姉妹によって転移してきた当該地域に対するする疑問の回答を得ることは叶うが、(うけたまわ)った上流の使命については、未だ深々と鮮烈かつ鮮明に……刻み込まれている。



私が現実として把握し、(ほお)で触れた情景。

印象を逃すことなく、詳細に重ねて記載することは出来ても、破棄し塗り替え、新たなる心持ちから行動に移ることは出来ない。



この世界の舞台は擬似的海洋なるもの……。

水に(まつ)わる大地を(たた)えた大いなる空間。



薄膜(はくまく)なる水浸しの世界であるために、あらゆる現象……印象は、光を反射させるための素材と化し、結果、全てが極めて自然的華美(かび)なものへと収縮される。



水面に浮かぶ大穴。

その縁にて立つ異界の者共。



そこに(くみ)する私は、彼女達の目的を聞いたことにより……。

全感覚器官を「人質」に取られたかのように感じたのだ。





「つまり、私達はこれから、あの穴から魔石を採掘し、加工した上で、天まで登る足場を作り上げると」



「その通り、それが我々トーピード魔導騎士団の任務である」



「それこそオネスティーくんと出会ったあの場所もー、この場所に近づく敵を索敵するためだったしねー!」



「ええ。我々は空へと向かうべく、行動をしているのですよ。最初から……これからも」



「差し支えなければ、空へと向かうその、理由とは……」



「それは、ねえ?」





オリヴァレスティがイラ・へーネルの顔を覗き込むようにして尋ねる。

それに応える形で、彼女は小さく目を見ながら二回程(うなず)いた。





「えっと、空中には未だ主張する領域というものが確立されていなくて、王国の思惑としてはどの国よりも先に旗を立てたい、ということなの!」



「=うん。空に旗を立てる。それは言葉の意味そのもので、留まることさえない空中に、領域を主張する為には、土地が、そして明確なる滞留が必要。うん」



「ああ。即ち、未だ成し遂げられていない、空中上における持続的な生存を魔鉱による土台作りから取り組もうというのが、我々の考えなのだ」


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