152.砂塵/加算
「魔鉱については聞き覚えはあるわね。魔素の集合体である魔石から抽出される魔鉱は、唯一空間上を高加速状態で移動可能な物質なの。……つまり、現在魔鉱のみが回収可能な物質であるということになるの」
「なるほど……抽出物である魔鉱が唯一の移動可能物質であるがために、それをもってして計画を立てているんだな」
「その通りだわ。簡単な話、魔鉱を沢山集めて元の世界に持っていけばいいのだけれど……かなりこれが特殊で一筋縄ではいかないのよ」
「どういうことだ?」
私は、極めて興味ありげに尋ねる。
感覚的には、まるで身を乗り出すかのようにした行動。
少しばかり後悔を覚えながらも、思慮を巡らせる。
不悠乃が口にした魔鉱。
それは魔石なる存在の抽出物であり……。
それこそが、彼女の求めるものであるという。
カトブレパスと出会い、その先に踏み入れた帝国統合施設にて。
トーピード魔導騎士団の面々と回収作業を行った魔石。
恐らくそれが元となっているのであろうと考えられ、あくまでもその入口までを想像出来る私にとっては、彼女との会話は慎重にならざるを得なかった。
更に、空間上を高加速状態にて移動可能であるということは即ち、現代において使用される移動機器に耐え得ることが示されており、現段階で開発されている「移動」に関しての原理に当て嵌めて考えれば、やはり彼女の行動は、魔鉱を回収するためのものであると考えられる。
彼女の求める魔鉱とトーピード魔導騎士団の求める魔鉱が同一なるものだと仮定した場合、その目的……当物質を用いて何を行うのかということが、今後いずれにおいて、最も重要な「事柄」となる。
故に私は、冬月不悠乃、彩雲彩花が魔鉱をもって行おうとしている回収に際して、その障壁となる問題について深く、そして意図を悟られぬよう収集せねばならない……そう、理解する他ないのだ。
「魔素溜りとの反発作用から、一定量以上の魔鉱を一度に運ぶことが出来ない……それに、上へと移動させる場合には魔素の供給源と直線で繋がなければならないの」
「……それは」
私は、これより先の言葉を考えることが出来なかった。
彼女の発した言葉に、まずは返答として繋ぐことのみを第一に考える事となった「理由」は、その内容にあったのだ。
流水の如く告げられた魔素溜りの件と、同時に並列された上々なる行い。
その二つの情報を思えば、彼女の意図が読めてくる。
まず、彼女は魔鉱を現世界より回収、移動することを目的としており、その障壁として一度に大量の当物質を運ぶことは不可能であるとした。
それが示す事実というのは、彼女……達が行おうとしている計画については、現状において極めて難題なる問題に直面しており、長い期間における運搬か、その現状を打破する動員を用いる必要があるということだ。
つまり、その言葉から今後の期間や、その規模、更には私に降りかかるであろうトーピード魔導騎士団との関係性が露になる。
そして、特に注意すべきは後列に語られた点であり……。
そこで彼女は、魔鉱を上昇させる必要を説いている。
恐らく上空にて確かに存在する巨大な偏平浮遊物を指しているのであろうが、その情報から察するに、彩花は魔鉱の運搬に際して、当浮遊存在に留まざるを得ないのではないかと考えられる。
その可能性。
不穏なる香りを察知すればこそ、発せられた言葉より先を即座に口にすることが叶わず、その場凌ぎの返答を行う他なかったのだ。
「あの場所まで、少しずつ限られた量にて、魔素溜りから直線として繋がなければ、運ぶことが出来ないということか?」
「気づいているみたいね。……どこに運ぶのかは」
「ああ。上へと言われれば、それなりの存在が鮮烈に主張をしているからね。……想像は出来るよ」
「頼代さんの想像は正しいわ。正しく、少ない量を直線として繋いで、あの場所まで運ばなければならないの」
「疑問に思ったんだが、その直線として繋ぐというのは具体的にはどういったものなんだ?」
「それはね、地道に魔素溜りから空まで積むことが方法としてあるわね」
「……積む。なるほど、しかしそれだと多大な時間が掛かるんじゃないか? 運搬に際する制約もあるようだし」
「そうなのよ。そこで、頼代さんの今後についてが関わってくるのよね」