151.低迷/厭世
意図してか意図せずか。
私は、話題の本流に参じることなく放置されたままでいた異物に目を向ける。
上面に取り付けられている現代的なる硬質物。
存在を確認しながら、変化した空間を感じる。
私が立ち尽くすその場は、正しくア号姉妹と出会った「空間」であり、彼女達の存在が認められないことから恐らくの顛末を悟ったのだ。
「そう。他の人達は皆この中に格納されているわ。これが何かは分からないわよね?」
そうだ、彼女にとっての「私」は、その正体を知らないのだ。
本来……縁談に訪れただけの相手が異なる世界について、そして異物を抱えた現人類の目論見など知るはずもない。
知り得ているからこそ、私はその存在を素直に見れぬのである。
「……一体これは、なんだ?」
「これは空間転移装置。この世界の中であれば、どこからどこまでも移動が出来る機械だわ」
「この中に彼女達を入れて……どうしようと」
「あら、先程も申したように、会話をするのに置いているだけなのよ」
「……認知はされていないんだな」
「それは勿論。関係性が露顕すれば頓挫するもの。調整が終われば直ぐにでも解放し、後は頼代さんに任せるわ。といっても、私はあの人に代わって現地での軌道修正を任されているから、何れにしてもこうなる運命という訳だけれども」
「……納得は出来ないが、それも彩花の意思なのだな。それにしても彼女は、こちらへの接触は不可能……なのか」
「そうね。やはり人員不足は否めないわ。こちら側からの接続には時間が掛かるのよ」
「そうか。なら、その調整というのを私が引き受ければいいんだな。……仕方がない、教えてくれ」
私は兵器、もとい空間転移装置と不悠乃を交互に見ながら発する。
彼女が大々的に告げた「空間転移装置」なる機能については情報として理解した上で、開示しなかった他の情報についてを深く気に留める必要がある。
機関から得た情報には、正しく視界に映るこの扁平なる兵器についてが詳しく示されており、部外秘であるその存在が現状として確認出来る事態……。
それは、誠に由々しきものである。
どこでその情報を、そしてどこから持ち出した……。
いや、作製することが出来たのか当然不明であり。
彩花についての対応を考え直さねばならないと実感することになった。
……冬月不悠乃が、この場で兵器として説明をしてくれれば、このように頭を悩ませることも、なかったのかもしれない。
看過できない結果を見据えながら、私は次なる話題を求め、自らの立場が揺らがぬような行いを画策するべきであるとの結論に至った。
この様子だとやはり……。
冬月不悠乃は、私と彩雲彩花との関係性について。
初期段階での情報を得ているのであろう。
「そうだわね。頼代さんには彼女達が目覚めたらまず、無知を装いながら事の流れに従って欲しいの。トーピード魔導騎士団は自らの状況を理解する手立ては持ち得ていない。そのため、状況把握不透明の中で次の行動に出るわね。それがつまり、魔鉱についてってわけ」
「……それは」
彼女から告げられた一つの単語。
それは大変聞き覚えのあるものであり、それこそついさっきまで必死に腰を痛めながらに集めていた「モノ」なのだ。
トーピード魔導騎士団から告げられた回収物である魔鉱。
それについてを彼女が知り得ているということは。
その存在こそが、共通の鍵なのであると……。
私は、そう確信せざるを得なかった。