014.前線/基地
《ラムダ山上空》
「着いたな」
「……はい」
魔鳥の背中は大きく乗りやすかった……が。
如何せん剥き出しのままの飛行は、壮大な景色を慈しむより恐怖心が勝る。
「へーネル団長ー! 無事で良かったー! おーいオネスティーくん!」
聞き慣れたファブリカの大声が聞こえる。
その声がした方に目を凝らすと、何やら「面」を付けた人が現れた。
「あれ……もしかしてへーネルさん。あれってファブリカさんですか?」
「ああ、外仕様を見るのは初めてだろう。まあ無理もない。ずっと穴の中にいたからな。二人は作戦中は自身の姿を変えているんだ」
(……二人? ということは……)
早速、臨時的入口から出てきた彼女の後からダルミが顔を見せる。
思った通り、ファブリカと同じく面をつけている。頭部を覆う堅牢なる面は、言うなれば溶接面にも似た印象を抱かせる。黒い面と白い面。それは、二人を区別する為のものなのだろうか。
二人が姿を見せたかと思えば。魔鳥はそこに向けて一直線で急降下をし、山肌へと降り立った。そこで目にした二人の詳細。革と思しき胸に付けられた板は肩、そして腹部辺りで保持されており、イラ・へーネルが着用しているものとは、異なる印象を受ける。
拡張性の高い上面と身体の流線型に沿った下面で作られた上半身の装備品。腰と腿に付けられた収納袋のようなものから、運搬の効率性が窺える。面と同様に黒と白のそれぞれで統一された上下衣には、目立った装飾はない。それがかえって、二人の対比を強調させた。
「ご無事で何よりなのですよ。へーネル団長。オネスティさん」
「ああ、私が留守の間、何か異変はあったか?」
「ご不在の間、空間把握で確認したところ、それらしきものは発見出来ませんでしたよ」
「ご苦労。ならば、これより基地へ帰還する。この世界での共通認識を知らないオネスティに、生きていく上で必要なことを教えなくてはいけないからな。それが今回の働きの報酬だ。それに……教えてもらうこともあるだろうしな」
身の安全の保証。それを理由に、私は彼女と約束を結んだ。しかし。役目を果たしたとは到底いえない私に、その保証が与えられるのだろうか。
私はこの山の中、前線基地に再び入る。ここへ初めてきた時は、石を取ってくることだけ考えていれば良かった。だが今回、山の中に入るのには考えることが多すぎる。いつの間にか増えていた存在の影響にて、身動きが取れなくなってしまいそうで、心底恐ろしい。
────私は、基地へと戻る。「トーピード魔導騎士団」と共に。




