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148.苗木/暗黙


明らかなる状況の変化。



私は、自らを定めるべく意志を固めた。





「……ファブリカさん? どこですか?」



「……ここー、ここだよー……ちょっと待ってねー」





曇らせながらに発した言葉に反応をする、ファブリカの声。



位置を判別することは出来なかったが……。

私一人がこのような状況に置かれているといった最悪の事態は、(まぬが)れた。



彼女が私の問いかけに返答するなり、暗闇の中に灯火が浮かび上がる。



忽然(こつぜん)と姿を現したその光源は量、大きさを増大させ、しまいには私と、対となる位置に存在していた人影を照らすまでになった。





「ファブリカさん、そこにいたのですね」



「まさかー、あの燭台がー、光を(まかな)っていたとはねー」



「ですね。手掛かりの消失が……この状況を引き起こしていると」



「うんうんー、まずはここが元に戻った場所なのかー、それまた別の場所なのかー、調べなきゃいけないねー!」





口元に当てていた、自らの衣服を下ろし……。

そう言って、ファブリカは手にしていた杖を高らかに掲げる。



彼女が手元に浮遊させていた紫炎は僅かながらの距離を照らしていたが、その炎を勢い良く上方向に投げ、杖によって発生させた「風」に任せて辺りに散ってからは、ほぼ全ての空間の把握が叶うことになった。





「……この場所。拠点、ではないようですね」





(さえぎ)るものを彼女に(なら)って取り外した私は、極めて鮮明なる発生にてこの場所……空間内の状況を第一の印象として告げた。



ファブリカが飛散させた紫炎は私の視野を広げ……。

この場所が、どういったものであるのか、自ずと判明する。



ただ、灯りが灯されたことによって把握が可能となったが、それに伴って一縷(いちる)の望みが遠くに感じられてしまった点は(いな)めない。





「だねー……これはー、なにかなー?」





空間……私は、明かりの灯された現環境にて、そのような印象を覚えた。



なぜならこの場所は……。

四方を壁で囲まれた白色(はくしょく)の、(まさ)しく。

無機質なる空間であったからだ。



……そのような異質なる空間。

目指していた場所と明らかに異なる状況において。



最も特異なる存在に私とファブリカは文字通り釘付けになっていた。





「……これは……いや、なんですかね……」





私は前方、そして背後にかけて、そう、まるで……。

その場で超信地旋回(スピンターン)を行うかのように空間内の把握に努めていた。



しかし、ファブリカが見つめていたのは上面。

私とは異なる向きにて視線を送る彼女に従い、目にすれば……。

そこには(まゆ)のように四方八方から伸びる糸の集合体が形成されていたのだ。



それも、その姿は私の記憶に残された一種の「兵器」であることは即座に思い起こされ、不格好ながらも迅速に隠蔽(いんぺい)を行う羽目となった。





「天井ー……? に(くく)り付けられているみたいだけどー、ここでの手掛かりー、気になるところと言ったらー、やっぱりこれしかないよねー!」





これ以上の情報漏洩(ろうえい)を防ぐべく。

ファブリカに対して知り得た真実は、決して告げぬよう心に決める。



彼女はというと、私が見て見ぬふりをしようとしていた仮称「繭」に対して並々ならぬ興味を抱いたようであり……。



まるで、脚立(きゃたつ)を立てるが如く勢いにて、杖を展開させた。



展開させたといっても、実際は彼女は自身の杖を地の底面に対して垂直に立て、自立した上方先端に足裏を付けている。



その上で驚異的な均衡を保ちながら。

天井と(おぼ)しき空間上面にて、手を伸ばしているのだ。



その特異なる姿と、上面に張り付く繭のような異物を同時に見ながら。

もしやこれは燭台の時と同じ結果を招きかねないのではと……。



遅ればせながらに、気づいてしまった。


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