146.王国/過密
「上昇ー!」
「……え」
目の前の存在が「線」と化した上昇。
まるで負荷が、可視化されたかのような光景に……。
私は、息を呑む暇すらもなかった。
「……っ」
「よーし! オネスティーくん! これで王国へ向かえるのだー!」
「で、ですね。これで完全に。……魔術士からは振り切れますね」
「うんー! 後はひたすらにー! 真っ直ぐだー!」
上昇を終え、安静を取り戻した視界に映るのは、下部として存在する魔術士群と、張り巡らされた地表の針金であった。
包囲網を越え、帝国内部に集約される無数の線路を追い越していけば、当然の如く新たなる国から離脱することになる。
今や背後に残していった帝国という未知の存在に対して、介入の事実ありと結論付けるに至れたのは大いなる成果である。
情報を持ち得た人間との接触、検証を経……。
次なる期待へと誘う行いを切望し、空を飛ぶ。
風を切りながらに進行するファブリカの背中。
その場に隠されながら、私は、王国へと向かったのだ。
・・・・・・
《王国》
石壁にて囲まれた歪なる生活空間。
御所のように、確かに存在する別系列の混合に……。
私は、最早懐かしみすら覚え始めている。
空を飛びながらにして目にした別国家に比べれば、共通点は幾らかしかないはずなのだが、彼女等の拠点がそこに存在しているとの事実は……。
心を傾けさせるのに、十分な事柄であった。
目にした光景、懐かしさを含ませた光景。
故に、視界に映る王国の様相に、驚きなる印象を受けなかったのだ。
「オネスティーくん! 王国に降りてー、拠点に向かうよー!」
「分かりました。ちなみに団長さんからの連絡は……」
「まだー、ないんだよねー」
「阻害が継続していると……やはり急いだ方がいいですね」
「その通りー! 急ぐよー!」
認識阻害を解き、衛兵に門を開けさせたファブリカは、その端にて先を臨む。
門内、私の傍にて佇む彼女は、こちらへ顔を向かわせながら笑みを浮かべる。
一直線上に伸びる大通りを捉えながら……。
私は、歩みを促す彼女に従い、先へと急いだ。
目指す場所、目印となる場所は、蛮竜の広場だ。
・・・・・・
香ばしい香り、研ぎ澄まされる視覚、大きな道だけあってその幅は広く……。
左右に作られた店々は、見渡す限りに展開されている。
王国を端から端まで貫く通りを進み。
確かに存在している、拡張的空間を求める。
先導するファブリカを追いながら……。
私は、彼女がその空間を認めたのを確認し、歩みを止める。
……そこで、私は再び。
蛮竜の広場なる区域に建てられた「拠点外部」を目の当たりにしたのだ。
「とうちゃーく! さっ、オネスティーくん! 問題はここからだよー!」
「ですね。この先に何が広がっているのか。未だ連絡が取れない……その詳細が待っていますね」
「よしー、でもくれぐれもー、一歩目には注意してねー!」
「……はい。一般用の内部はそのままの可能性も捨てきれない、そういうことですよね」
「その通りー、つまり今後についてもー、左右されちゃうんだよねー、その先にー!」
彼女はそう口にし、扉を開けた。
大層に開かれたそれは……。
内部の空気を押し出し、溢れ出した環境と共に、私達を覆ったのだ。
「この香りは……」