145.可変/滞空
彼女の言葉から顔が半分ほど戻っていることを知り。
私は、認識阻害を付与された上で、離脱する。
そして、空へ上がる為に……。
再びファブリカの杖に同乗し、拠点を求めて位置を定める。
空中へと赴き待機することによって、今までは目にすることは出来なかった、「帝国」の全体像を捉えることに成功した。
遥か遠方、進行方向として定めた地点。
王国の位置と思しき区域には……。
その進行を阻害するが如く、網のように存在する浮遊物が確認された。
「ファブリカさん、あれは……」
「帝国の魔術士だねー! 団長達ー、認識阻害を掛けずにー、勢い良く離脱したんだと思うよー?」
張られた包囲網、それは、イラ・へーネル率いるトーピード魔導騎士団が……その方向にて進行したことを示している、後発の存在を阻害するために、彼等が、こうして任に着いているのであると思われた。
空中にて待機し、その存在を確認したファブリカは、私に向かって進行の合図を小さく告げるなり、それこそ勢い良く加速した。
当然、目指す場所はあの先だ。
・・・・・・
問題の場所から離れたことにより。
空気が変わり、心残りを精査することが、出来るようになった。
心残り。
気掛かりとも言って良いそれは、彩雲彩花そして冬月不悠乃の両名の存在であり、カトブレパスという存在が彼女達についてを知り得ているのかと尋ねることこそが私にとっての責務であった。
しかし、彼との出会いには常に外部の人間が付き纏っており。
例え彼が有益な情報を齎したとしても、それを共有する存在がある以上……。
開示については躊躇われたのだ。
もし仮に、彼から得られた情報によって今後を大きく左右してしまうことがあるのならば、それを耳にするのは一人で良い。
私は、彼の言葉をある意味で信じ、次なる環境での会話を望んだのだ。
帝国統合施設に残された彼の存在は……。
苦渋の選択の結果の上に、成り立っている。
つまり私は、なにか大切なものを……あの場所に置いて来たのかもしれない。
変化した環境、景色既に迫ろうとしていた包囲網を目の当たりにし……。
私は、この移動物を扱う彼女に、尋ねる他なかった。
「……ファブリカさん」
「んー? どしたのー?」
「このまま、前のように突っ切るのですか?」
「ん、いーや! 違う違うよー!」
「?」
帝国魔術士が群のようにして立ち塞がる現状。
このままの加速した状態で進んでいけば……。
杖上の人間は行き場を失うことは、「必須」である。
以前と同じような光景、記憶を頼りに彼女へ尋ねる。
合間を縫って進路を掴み精査する時間は既に無く、私としても、もう少し早い段階でその行いに至ることが出来れば……こう焦ることはなかったのだろう。