140.思惑/攪拌
私は彼の意志を悟り、内なる待機段階へと移行する。
その間、万全な期が訪れる前に、不安要素である魔術についてを……。
それについての……いわば専門家に、解き明かして貰わなければならない。
「……ファブリカさん!」
「……分かってるよー! しっかり掴まっててねー!」
煙の中より姿を現したカトブレパスを前にし、ファブリカは告げる。
自身の背に私を隠し、視界の先に広がる変化を捉える。
逃すまいと、視線を固定させたまま、小さく頷く。
促されるままに肩に右手を置いた私は、事の起こりを待ち望み、彼女の背から……気づかれぬように腕を伸ばしていた。
────閃光。
確かに離れた地点より発生する光の塊。
視界を固定させ、互いに視線を送る先にて存在していた人物。
その姿は、その影響により、確認出来ない。
迫り来る魔術。
それを確認したすぐ傍の彼女は、予想通り応対の動作をみせる。
……私はこの時を待っていた。
カトブレパスとファブリカによる魔術の衝突。
それによって発生する現象の中、後に展開された後に確認される効果を私自らのものではなく、あくまでも彼女の影響であるとする必要があった。
故に今尚、閃光迫り来る現状にて。
左の手の甲に巻かれた水圧式小型射出器を光の発生源へと向け────。
衝撃の発生と同時に、射出を行ったのだ。
◇ ◆ ◇ ◆
揺らぎ。
凄まじい勢いで迫り来る閃光に、それを防ぐべく展開された魔術とが衝突し、辺りに多大なる影響を及ぼした。
私の視界は、大きく振動する。
自らが切り離した存在を確認する前に、一度意識が離れた。
そして、しばらくして視界の阻害が回復すると、辺り一面はこれまた先程のように煙が立ち込めていたが……一点。明らかに、異なる点が存在した。
それは、ファブリカがこちらを向き……。
今まで煙から隔てていた魔術の「展開」を止めていることである。
彼女のおかげで煙とは無縁であった先程とは異なり。
咳き込むほどに近くなった噴煙に目を凝らしながらも……。
身体に異常がないことから、安堵なる心持ちを持続させる。
それをいち早く悟り、彼女は煙を取り込んだのだろう。
「……ファブリカさん」
「オネスティーくん、どうやら、上手くいったみたいだよー!」
「上手く……って、カトブレパスは」
惚けた返事を送り、辺りを見渡すかのような行動をしてみせる。
さすればと、ファブリカはこちらに体を向けたまま、腕を上げて引き込む。
握り拳を作りながらに親指を二回程背後に送る。
それが指し示す方向に少しばかり体を移動させ、彼女の体から視線を確立させると、そこには私を酷く安心させる存在が映し出された。