139.吸収/蓄積
本来ならば、他者の介入は想定されていなかったが……。
今回ばかりは、仕方がないだろう。
それ以外に手立てがない、そう考える以外の方法を私は知らない。
現状、この辺りを囲んでいる未知なる煙から逃れることは出来ず、彼女の傍を離れて会話をすることなど不可能である。
未だ姿を見せないカトブレパスをこの場に出現させるためにも。
これより行われる事象を割り切り、打破を最たる目的として────判別容易なほどに、据える必要が……あるのだ。
「────カトブレパスさん。あなたは先程自ら『攪拌』と口にされました。私にはその言葉、聞き覚えがあるのです。……どうです? 他の調査員は如何してますか?」
私は、自らがこの異空間へ移動する以前に得た情報を口にする。
その姿さえ見えない不確定なる存在に問いかけ、彼を呼び寄せる。
最早、秘匿に関しての進行は潰え、その理解を移行させる方法のみとなった現状において、私が彼を掴むのには空間の保持が不可欠であった。
「それは……ねぇ。糧とさせて頂きましたよ」
依然として厚い隔たりから窪んだ空間を作り出し、姿を見せた存在。
首を傾げながら目を爛々とさせ、こちらを臨むその姿。
私は、ファブリカに視線を送る。
返答するように小さく頷く彼女を目にし────。
私は、その応対に「言葉」をもって成功を告げた。
「糧……?」
「はい、それは文字通り」
「それは一体どういう意味で」
「いえ、他の調査員の方々を糧と……食糧として頂いたのですよ」
「な……人を食べ……なぜそんなことを」
「先程申した通り、他者の器官を奪うことが自衛となることを知り、現在に至って邁進してきました。しかし、比較的早い段階でそういった『いざこざ』が起こり、別枠の存在からも回収が可能なのでは? との疑問から他の調査員を取り込んでみたところ、まあこれは甘美でありました……」
「……つまり、魔術の恩恵を得られる器官の回収を現地の人間を使用し行っていたところ、偶然得られた調査員の存在から、その特異性に気づいたと?」
「ええ、それはそれは! 特異中の特異ですよそれは。まさかこちら側の人間の肉がああこんなにも美味だとは気づきませんでした。なので、そう気づいてしまったら最後。私は……食事を続けた、そういう次第なのです」
「魔術を得るにはこの世界の住民。味としての益を求めるには同郷の者と……」
「この住人は、魔術を扱う。しかし、魔術を歴史として触れていない純朴なる肉体は、全く異なり、耽美であったのですよ」
「……なるほど、となると現状。第五次調査員はカトブレパスさん一人になるのですね」
「そうなりますね」
「……カトブレパスさん。今も意識はされているとは思いますが。攪拌、先程そのようにも口にしましたよね」
「やはりそこですか。うっかり口が滑ったと言ったら許してくれますかねえ……」
「知り得るはずのない言葉を口にされれば、それはもう。……そうですね。他にも接触者が?」
「……それは、どうでしょうね」
カトブレパスはそう口にすると……。
小型の杖をこちらへ向け、にこやかな表情を向ける。
────差し迫る現状。
私は、静かに左の手に意識を向けていた。
彼のその姿を見れば、会話の継続は不可能であると悟り、私が、そして彼からも追加的情報の共有が行われないことを明確に指し示していたのだ。