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013.試練/魔術


あの言葉は、彩花の口癖のようなものだった。

その言葉。忘れるはずもないのだ。





「────魔石が君の元から離れたことにより、我々の存在の露顕(ろけん)危惧(きぐ)し、彼女に要請をした。……まあ。その後、あの中で何が起こったのかは私には分からないがな」



「そんなことはどうでもいいんです……あいつは、あいつはなぜここにいるのです。それになぜ────」





乾いた音。遅れてくる痛み。即座に判別するに────私は(ほお)を叩かれていた。熱を(はら)んだ傷の痛みが、内部での出来事を思い出させる。





「オネスティ。しっかりしろ。忘れていないか? お前は感覚共有が付与された石をここに持ってくるだけでいいんだ。しかし、お前は手放した。故に、それより先の事柄に関わる権利はない。それに最初から、生存出来る保証はどこにもなかったわけだしな」



「嘘だ……どこにもそんな証拠なんて……」



「あるぞ。見るか?」





私はイラ・へーネルに連れられ、立つ。

燃え尽き、最早(もはや)原型を留めていない小屋の前にて。





「見えるか。この焼け跡の下。赤色の紋様(もんよう)があるだろう? ここに繋がっている紐をこうして────」





彼女が紐を引くと、その紋様から黒い球体が現れた。





「下がっていろ」





そう言って彼女は、手袋を脱ぎ捨てる。

(あらわ)になった手の甲には、人の口が付いていた。



指を下に、手の甲をその球体に向ける。

さすれば、口が大きく開き、飲み込まれていく。





「これはな、毒だよ。お前を殺すためのな」



「────」



「……はあ。信じてないようだな。じゃあ見てろよ」





へーネルは飲み込ませた手の甲を小屋の先の森へと向ける。



口が開き、先程取り込んだ球体が飛び出す。

即座に、勢いよく木にぶつかり、その場で破裂した。



炸裂し飛び散った黒い球体。

泥のような流動性を(まと)いながら付着した木を溶かしていく。





「これが、人体に付着したらどうなるか分かるよな。それにこんなものを家の下に隠しておくこと自体、常軌(じょうき)()している」



「……しかし、……いえ」



「これでわかったか。さあ、帰るぞ。────よし、準備は出来た。オネスティ。こいつに乗ればすぐに帰れる」





そこにはあの時の「鳥」がいた。大きい大きい禍々(まがまが)しい魔鳥が。イラ・へーネルは前と同じ手順を踏んで、無から物質を出現させたのだ。私は、魔鳥の(そば)にて立つ彼女を目指し、駆け寄る。





「あの、へーネルさん。私はあの時、その、魔石を置いて……」



「ああ、知っていたし気にするな。私だって、本当のことを言わなかったんだ。叩いたりもしてしまったしな。まあ、今回に関してはだれが悪くて誰もが悪くないなんてことはないだろう。こうなったのは、大賢者のお導きだ」



「────」



「ほら、早く乗れ。それにこの戦場において、君一人、他に道があるのか」



「は……はい。よろしくお願いします」



「よろしくお願いします……か。────悲しいことを言うんだな」


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