136.恒久/薔薇
「……私?」
「何を今更惚けているのですか。そうですとも。……帰れないと知りながらここに送られた。だからこそ、この術を得たのです」
「それが、その……魔術」
「その通りです。あなたには分からないでしょうが、王国の方々は十分理解しているらしいですね」
「……それは」
動かされたカトブレパスの視線を追い……。
私は、同列より確認出来る「所属位置」に目をやる。
「オネスティーくんと同郷の者であれー、ダルミが察知した反応だとー、あそこにいるのは複数人で間違いないんだよねー」
「そうなのですよ。魔術反応後、色濃く判別され、明らかに彼の身体には別の人間の『魔術器官』が内包されているのですよ」
「……なぜ、そのようなことをしたのだ?」
「いやそれがですね。にわかにも信じ難い、処世術と言いますか。何も知らない世界で生きていくには、これしかないと思ったのですよ」
彼は大きく息を吸い、そして吐く。
天を仰ぎ、上部を臨む彼の姿を誰しもが捉え……。
この異様なる一つの間に固唾を呑む。
「────複製。他者の魔術器官を無傷のままに取り込むことによって、自身の複製を生み出すことが出来る。感覚が共有された別枠の存在は、例え消失しようとも残されているものがある限り潰えないのです」
そう言って彼は、上部に向けた顔を元に戻し、視線をこちら側へと向ける。
上部から前部へと組み替えると……。
口の中に指を入れて、「何か」を取りだした。
「ふう……。……可愛いですよね? この子」
指を舐めながらに示したその先には、頭部は兎、身体は毛の生えた芋虫、大きさは子犬程の「得体の知れない生物」があった。
これが彼の口から出てきたのだから声も出ない。
……そう、その存在を目にするのはこれが初めてではないからだ。
「おい貴様。何故それを────」
「あー、あなた方が何者なのか前もって調査済みです。詳しいことは言えませんが、魔鉱を求めるあなた方を留めておくことが目的なのです」
「まずい、まずいよ団長。あれが作れるっていうことは、拠点が……」
「=うん。工程について触れられている以上。あの場所は安全ではないと考えるのが普通。うん」
「ここは速やかに救援に向かうのがー、先決だと思いますー」
「同感なのですよ。……こちらからの接続に反応がないことを考えると、最悪の場合も────」
「分かっている。だか……我々もそのつもりで、放ったであろう?」
『……』
「彼を排してこれより先へと向かうのは……そう簡単ではないらしい」
「分かって頂けましたか。あなた方を足止めするために私が派遣されたのです。……他者を利用した魔術重複における『攪拌』それが、私達の真実です……ですよね。オネスティさん?」