135.懐古/硬質
立ち込める噴煙。
覆い、隔てられた空間。
辺りを焦がす白色なる現状を複雑に臨む。
周囲を曇らせ、自身の位置すらも判別が難しいほどに荒れた内部。
一瞬にて変化した現象に視界を固定させれば、次第にそれは和らぎをみせる。
落ち着きを取り戻し、視界に確かに存在する「一塊」を捉えた事を理解すれば、それを合図とするように、小さく揺らぎ始めたのだ。
「困りました……そのようなつもりではなかったのですが……」
未知の飛翔物による衝突。
前と後ろ、両者から放たれたそれらは噴煙を生み出し、姿を紛れさせた。
次第に晴れゆく隔たり。
首辺りに手を当て、軽微に苦い笑みを浮かべる対面の人物。
……「未だ」そこに立っている。
口を開き、淡々と言葉を生み出す彼の瞳に、彩は見られなかった。
「……カトブレパス」
固形である地を変形させ、生み出した衝撃に対する残留物を見れば、対として得られた「現象」は決して小さなものでは無いことが容易に想像出来る。
だが、視界を阻害していた変化が終焉を迎えるも……。
映し出された区域に存在する彼は、依然として平静である。
身を乗り出すように、まるで次なる変化を待ち望むようにして。
晴れた空間に一人、こちらを臨んでいた。
「おい、オネスティ。あいつは、一体……」
「私にも分かりません……。そうだ、魔術、彼は魔術を」
「あれはー、かなり混じってるねー」
「?」
「ファブリカ分かるか。……ああ、そうだとも、あいつ取り込んでいるようだ」
「……まさか、部分を、なのですよ」
静寂に包まれる空間内にて。
認知可能な集団は、一点を極めて不可解に警戒をしている。
自らが身を置いた集団内部から同様に、 視線を向かわせれば、そこには不敵なる笑みを浮かべ始めるカトブレパスが待機している。
魔術によって「魔術」が留まり、人的被害皆無に収まっている現状であるが、その彼がトーピード魔導騎士団の攻撃を無力化しているとの事実に誰しもが容易には呑み込めないのであろう。
「……あなた方に気づかれず、彼が素直に消えてくれればこうはならなかったのですが……」
「おい、そこのお前。……誰の差し金だ?」
「そんな! 団長さん。私はオネスティさんの知り合いで、そのような事は……なんてことはもう難しそうですね」
「ああ、今更疑いはしない。見れば分かる。……で? 誰に言われて肩入れを?」
「そんなの……言うわけないじゃないですか」
「……」
「私が、誰にだなんて、私は。私が、ここにいるのは……ああそうです。元はと言えば、あなたがいけないんですよ……」
顔を斜めに向け、暗い表情のままに送られた視線。
彼の瞳は光を作り、決して狂わぬ機械の如く、私を捉えていた。