130.期待/主軸
「すみません。ここに落ちているのが、その、魔鉱ということで合ってますか?」
「ああ、正しい。これこそが、魔鉱だ」
「あの、このような形をしているのって」
「まあ、そういうことなんだろうな」
「人間……ですか」
「組成は異なるようだが、形状は人間のもの。魔鉱を生み出すには人の体を通過せねばならない……。あまり考えたくはないな」
「そうですね。……今は、これを回収することが先決でした」
「ああ、そのような理解で有難い。手一杯になったら運搬、オリヴァレスティの元へと向かい、また回収その連続なる動きを期待する」
「……分かりました。それでは、失礼します」
イラ・へーネルからの言葉。
恐らく彼女は何故、このような特異なる形状をしているのか知っている。
だが口にはしない、故にそれが答えなのだろう。
魔鉱が、いくら馴染み親しんだ形状をしていたとはいえ……。
回収せねばならない存在には、変わりない。
そう割り切った上で、回収作業を迅速に行うことこそが、この場所より離脱する最善の方法であり、誰しもがそれを望んでいるに違いない。
イラ・へーネルの言葉によって各場所へと向かったダルミやファブリカの表情は焦りと悲愴、後退的な喜びを孕んでいたからだ。
・・・・・・
私はイラ・へーネルの言葉通り、自身の位置。
そこから変わらぬ地点から回収を始めることにする。
探すために歩くなどといった行為の重要度が下がる程に転がっている魔鉱を眺めながら、決心をつけてその場で羽織を脱ぐ。
着ていた服を袋のようにし、そこに魔鉱を溜める。
枝についたままであれば引き剥がし……。
地に埋もれていれば掘り起こして回収をする。
さながら墓所荒らしの様相に引目を感じるが、そうも言っていられない。
効率、運搬、回収。
それらを主軸に据えて、安静を図る。
今行っている自身の行い、行動こそが効率の良い運搬方法だとし、ある程度隙間の埋まったところでオリヴァレスティの元へと向かう。
全てを埋めるなど、到底叶わない。