124.解消/振動
「ファブリカさん、この壁に足をって、そうですよねやってみないと分からないですよね」
いざ向かおうと臨む壁に若干の恐れをなし。
私は、隣のファブリカに声を掛ける。
だが……彼女の足は既に壁の中へと入り込んでおり、片足半分が消えているといった状況からこれ以上の質問は無用であると考えた。
一度は不安感を募らせた「侵入」も……。
彼女に起きている現状を見れば、幾らか納得をすることが出来る。
さすれば、私も遅れることなく。
目の前の壁に向かって、この身を差し出す他ないのであろう。
・・・・・・
まるで粘土。
足を入れ、顔を入れる。
壁に向かって突き進んだ後、感じたのは纏わりつく粘土の感触であったのだ。
身体は重くなり、制限の掛けられた動きに焦りと苛立ちを感じさせながら。
一歩また一歩と足を動かすなり……。
それは徐々に徐々にと、軽やかなものへと変化していく。
視界に何も映らない現状から脱するべく、身体を覆う壁を進む。
より感覚として「楽」な部分へと手探りながらも進み。
ついに……身体の重みが、消え去る。
────視界の泥が晴れる。
重み……それは私の視界さえ奪っており。
身体の重みが消え去ると同時に淡い彩りを見せた。
頭を振り、身体に付着しているかもしれない存在を落とし……。
未だ歪んでいる視界を慣らすために瞬きをする。
一回、二回、三回。
……四回目に至ろうとした頃。
私の視界に人影のようなものが映り、安堵なる心持ちを確立させる。
「皆さん、無事であったのですね」
……返事がない。
多少戻りつつある視界の中で。
疑問に思う私は、捉えた人影の元へと近づいていく。
「あれ、へーネル団長? ファブリカさん? ダルミさん? オリヴァレスティさん?」
一人一人の名前を呼び、確かに存在している人影からの返答を待つ。
だが……未だ返答のない存在に違和感を覚え、少しずつ和らいでいく「揺らぎ」を清らかに解消するべく、目を擦る。
一回、二回、三回。
私は瞬きした────そこで気づく。
目の前の人影が、トーピード魔導騎士団ではないことに。